第35話 夜会議

 頑張ってくれたバルクとレオンを厩舎へと戻し、レスケルと合流してからガナン村長の家に報告へと向かった。

 村長は俺たちが帰るまで寝ないつもりでいたらしく、思いのほか早かった帰宅に驚きつつ、いろいろとあった末になんとかいつも通りの契約を交わし、村へ野菜の収益を持ち帰ったことを説明していった。


「そんなことが……ジャスティン殿を同行させたのは正解だったな」

「えぇ。仮に我々村の者だけだったら、きっと泣き寝入りをしていましたよ」

「そんな……俺は護衛としての仕事を果たしたにすぎません」

「謙遜するな。とてもいい仕事だったよ。――で、そちらの美人さんはどちら様で?」


 グラッセラでの一件が終われば、関心は自然とミラッカへと移る。これは無理もないだろうな。ガナン村長は何も聞かされていないのだから。


「初めまして、王国騎士団に所属しているミラッカという者です」

「ジャスティン殿やエリナ殿と同じ制服なのでそうじゃないかと思っていたが……また新しい駐在所のメンバーか?」

「いえ、彼女はグラッセラで偶然会ったんです。なんでも、もともと俺に用があって、この村を訪れる途中だったそうですよ」

「ほぉ……」


 何やら引っかかりを感じた様子のガナン村長。

 恐らく、「俺に用があって」という部分だろうな。

 ただ、これ以上追及したところで俺が答えないだろうと察したのか、それ以上は何も言ってこなかった。気を遣わせてしまったようだ。


 あまり遅くなっては申し訳ないので、今日のところはこれでお暇することに。

 新しい契約については再度グラッセラを訪れ、ガナン村長を交えつつ話を進めていく方向で決まった。



 ――で、駐在所へと戻ってきた俺たちだが、ここで問題が発生。


「こんなに夜遅くなってしまっては帰れないわね」


 ミラッカがそう呟く。

 

「あれ? 泊っていかないのか?」

「いいのかしら?」

「いいも何も、さっき君自身が言ったように、この暗い夜道の中をひとりで帰るのは無理だろう? この近辺にはモンスターも盗賊もいないが、それでも何が起こるか分からない。リスクを減らすためにも、せめて明るくなってから行動した方がいい」

「ふふふ、相変わらず理屈っぽいわね。でも、その心遣いには感謝するわ」

「いや……ミラッカ先輩ならひとりでモンスターを同時に十体相手にしても軽く蹴散らしそうなんですが……」

「エリナ? 何か言った?」

「イイエナニモ」


 ずいっとミラッカに迫られた途端に目線を外し、なぜか片言になるエリナ。何か変なこと言ったみたいだけど……全然聞こえなかったな。


「ともかく、今日はお言葉に甘えて一泊させてもらうわ。あなたたちが普段どんな生活をしているか興味もあるし――それに、まだ大事な用件は伝えきれていないもの」


 本題は後半の方だろうな。

 大事な用件、か。

 間違いなくそこにエリナを送り込んだベローズ副騎士団長が絡んでいるっぽい。


「立ち話もなんだから、入ってくれよ」

「えぇ、お邪魔します」


 ドアを開け、ミラッカを駐在所へと招き入れる。

 

「あら、思っていたよりもずっと素敵じゃない」


 中に入った瞬間、ミラッカの目の色が変わった。

 たぶん、彼女の想像していた内部は、騎士団の詰め所のちょっと小さいバージョンくらいだったのだろう。しかし、実際の駐在所一階部分は綺麗に整頓され、生活感のある普通の民家という印象を受ける。


 これは完全にエリナの趣味だ。

 俺としてはミラッカの想像するようなイメージのままでいきたいのだが、こっちの方が村人たちからのウケもいいし、住んでみて嫌な気はしなかった。聞くところによれば、エリナの実家がこんな感じらしい。


「これは完全にエリナの趣味ね」


 一瞬にして見抜かれる。

 まあ、付き合いの長いミラッカなら、すぐに気づくか。

 その後、エリナが淹れてくれた三人分のコーヒーが机に並んだところで、いよいよ本題へと移る。


「私たちはあなたの潔白を証明するために――目撃者であるハンクやソラード騎士団長へ接触しようと考えているわ」

「ハンク……」


 そうだ。

 すべての元凶はヤツにある。

 俺が左遷を告げられた時、ハンクはまるで自分が仕掛けたようなことを口にしていた。

もちろん、それをそのまま鵜呑みにするわけじゃない。

 昔からハッタリをかますところがあったからな。変に強がっていただけと言われても納得してしまうし。


 ――ただ、どうもミラッカたちの考えは違っていたようだ。

 というか、なんでソラード騎士団長の名前が?





※本日も18時と21時に投稿予定!

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