第34話 同僚との再会

 結局、その日は新しい取引先との契約やら何やらで帰りがすっかり遅くなってしまった。

 これから収穫の規模を大きくしていきたいとレスケルは意気込んでいたが、この話はガナン村長ともしっかり話し合って決めていくという。昼間のエイゲンバーグ商会って例もあるわけだし、慎重になるのはいいことだ。


 一方、グラッセラで再会したミラッカは俺に用事があったらしい。

 帰り道を同じ馬車に乗りながら進む中で、俺はその真意を尋ねた。


「俺になんの用があったんだ?」

「例の横領疑惑についてよ。あなたのことだからどうせやっていないのでしょうけど……強引な結論だった割にはあまりにも左遷までの動きがスムーズなので、みんな上層部に疑いの目を向けているわ。もちろんこの私も、ね」


 まさか彼女まで動いてくれているとは思わなかった。

 これは心強い味方だぞ。


「さっきのグラッセラの件もそうだけど、ここ最近は騎士という称号を利用しようとする不届き者が増えているらしいわ。今回のあなたの件も……立場に驕り、己を高めようとする気持ちを放棄した者による茶番劇だとベローズ副騎士団長は睨んでいるみたいよ」

「茶番劇、か……」


 そう切り捨てた後のミラッカの表情はどこか悲しげに映る。彼女もまた、騎士団という存在に憧れ、厳しい鍛錬を乗り越えて正式に入団した経緯があった。だからこそ、今の騎士団に失望しているのだろう。


「実は、あなたに接触するよう私に頼んだのはベローズ副騎士団長なの」

「やはりか」


 娘であるエリナをサポート役として派遣するくらいだからな。

 彼女が独断で動けるわけがないし、バックについている権力のある人物といえば真っ先に思い浮かぶ存在だ。


「そこから先は、村の駐在所で話すわ。エリナもいるのでしょう?」

「ああ。今は留守番をしてくれている」

「ふーん……」


 な、なんだ?

 ミラッカのヤツ……なんだか含みのある反応だな。



 少しトラブルはあったが、当初の目的を見事に果たし、短いながらも濃かった旅は終わりを迎えた。

 到着した頃にはすっかり夜も更け、村は静まり返っていた。

 とはいえ、報告をしないわけにはいかないので、とりあえずガナン村長の家を訪ねようということになった。外に人はいないが、だからといって眠りにはまだ早い時間帯だし。


「おまえたちもよく活躍してくれたよ」


 俺はまずレオンとバルクの二頭を厩舎へ戻すために駐在所へと立ち寄った。

 すると、物音に気づいたらしいエリナが勢いよく飛びだしてくる。駐在所に明かりがついていたからまだ起きているとは思っていたけど……凄い反応速度だ。


「先輩、おかえりな――ほあぁっ!?」


 だが、出てきた瞬間にエリナは固まってしまう。

 原因は間違いなくミラッカだよなぁ。


「元気そうね、エリナ」

「ミ、ミラッカ先輩……」


 にこやかな笑みを浮かべるミラッカとは対照的に、エリナはガチガチに緊張している様子。

 このふたり……何か因縁でもあるのか?

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