第33話 大乱闘

 店の奥から出てきた男たちは総勢で十四人。

 エイゲンバーグ商会が雇った用心棒だろうか。


「三流の田舎騎士のくせにいい勘をしているな。――だが、その勘の良さが命取りになる時もあるんだぜ?」


 下卑た笑みを浮かべながら、エイゲンバーグ商会の代表は男たちに合図を送る。仕掛けてくると察した俺は、放心状態となっているレスケルへ声をかける。


「他の村人たちと一緒に外へ逃げるんだ」

「えっ!? で、でも――」

「この場は俺に任せてもらって大丈夫だ。むしろ避難してくれた方が心置きなく戦える」

「は、はい!」


 村人たちは大慌てで店の外へ駆けだす。

 それとタイミングを同じくして、武器を持った男たちは俺に襲いかかってきた。中には剣を手にしている者もいるが……なっていないな。あまりにも大振りすぎて、太刀筋がハッキリと読める。典型的な素人の振る舞いだ。


 ……こっちは辺境領地へ赴任したとはいえ、聖剣使い。最近はもっぱら農業ばかりの生活を送っているが、日々の鍛錬は欠かしていない。町のチンピラ風情におくれを取るか。


「はあっ!」


 真っ直ぐにこちらへ向かってきた三人に対し、こちらもまた真正面から迎え撃つ。


「ぐぼっ!?」

「げはっ!?」

「どあっ!?」


 死にはせず、しかし戦闘復帰ができない程度に調整したダメージを与えてから次へ。

 ヤツらは集団で襲って来るが、連携もクソもない、「ただ数で攻めればいい」という考え方だった。それでは数の差の有利を活かしきれないが、そういう知識も技術も持ち合わせていないのだろう。


 あっという間に敵の数は残り五人。

 すでに半分以上が戦意喪失状態となり、うめき声をあげながら床に転がっていた。


「あ、あの剣は――聖剣か!?」


 ここで、商会の代表がようやくその存在に気づく。

 ……というか、遅くないか?

 観察眼のある者なら、俺が入店してきた段階でそれに気づいていたはず。


「バカな!? なんで聖剣を授けられるくらいの実力を持った騎士があんな田舎モンの護衛についているんだ!?」

「これも縁ってヤツだよ」


 俺は残った男たちへ剣先を向ける。

 こちらはまだ戦う意思があると示したのだが……どうやらあっちはそうでもないらしく、一目散に逃げだした。


「ま、待て! 高い金を払って雇っているんだぞ! 最後まで戦え!」

「戦ったところで結果は変わらんだろう。それより……これまでの悪行をバッチリ吐いてもらうぞ」

「ひぃっ!?」


 商会代表は観念したらしく、さっきのレスケルのようにその場へ座り込む。もっとも、こっちは救いの道は断たれているため、立ち直るのは無理だろうな。



 その後、レスケルたちが町に常駐している騎士たちへ事態を報告。

 驚いたことに、彼らはエイゲンバーグ商会の存在についてまったく知らなかったという。というのも、この辺りを管轄にしている騎士たちが数日前から行方をくらましており、王都と連絡を取り合って人員補充を要請していたらしい。もしかしたら、その行方をくらました騎士とやらが、悪徳商会とグルになってその手口が明るみに出てこなかったのかもしれない。


 ちなみに、買収されたドレスローさんは仲間たちと新しい商会を立ち上げていた。さすがはグラッセラの商人。転んでもただでは起きないド根性だなと感心させられる。


 その新生ドレスロー商会が俺たちの持ってきた野菜も買い取ってくれることになった。

 さらに、エイゲンバーグのことをよく思っていなかった町の商会関係者たちからは次々とお礼を言われ、今度はぜひうちにも野菜を持ってきてほしいと新しい取引先まで決まる。なんというか、ここまでくると出来すぎだな。


 エイゲンバーグの脅威が去り、賑わいを見せるグラッセラ。

 中心に立つ俺たちのもとへ、ひとりの女性が近づいてきた。


「グラッセラで騎士の失踪事件が相次いでいるらしいから、立ち寄って事情を得ようとしたのだけど……この騒ぎの真ん中にあなたがいるなんて予想外だったわ」


 この聞き慣れた声と喋り方は――


「ミ、ミラッカ!?」

「久しぶりね。元気そうで何よりだわ」


 同僚の女性騎士ミラッカだった。

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