第32話 悪徳商会

 俺たちが訪れた商会の代表は、事前にガナン村長から聞いていたイメージとはあまりにもかけ離れていた。


「ハッ! 泥臭い田舎モンが持ってきた物を置かせてやる店はうちにねぇよ! 店の前に置いた積荷を運んでとっとと失せな!」


「ま、待ってください! 話しが違うじゃないですか!」


 食い下がるレスケル。

 これには他の村人も、そして俺も納得がいかない。長い付き合いがあったはずなのになぜ急にこのような態度をとるのか――と、その時、俺は店内に置かれたある看板に目がとまった。


「エイゲンバーグ商会……?」


 妙だな。

 確か、うちが懇意にしていたのはこのグラッセラで百年以上商会を営んでいる老舗のドレスロー商会だったはず。もしかしたら店の場所を間違えたのかもしれないと考え、レスケルにこの事実を告げようとすると、


「そういや、何日か前にカーティスとかって村の村長から手紙が来ていたが……なるほど。おまえらドレスローのジジイが相手にしていた連中か」

「ど、どういう意味ですか!? ここはドレスロー商会じゃないんですか!?」

「そこはとっくに潰れたよ。厳密にいえば、うちが買収した形だ」

「ば、買収!?」


 初めて聞く話に、俺たちは騒然となった。

 

「そんな……ドレスロー商会が……」

「あのジジイの考え方は古かったんだよ。今時の商売に義理も人情も必要ねぇ。儲かるか儲からねぇか、それだけで十分だ」

「うぅ……」


 レスケルはショックを受け、その場に膝から崩れ落ちた。他の村人たちもどうしていいのか分からず、対応に困っている。


「おら、理解したのならとっとと消えろ。目障りなんだよ」

「で、でも、あの野菜を売らないと村の人たちの収入が!」

「おまえらの事情なんか知るかよ。ご丁寧に護衛の騎士までつけて乗り込んできたみたいだが残念だったな」


 直後、商会代表の視線が俺へと移る。


「名前も聞いたことがねぇ田舎町に飛ばされた騎士ってことは……大方、どこかで致命的なミスをやらかしたか、サボってばかりの怠慢野郎ってオチだろう? ボケッと見てないでこいつらを連れて帰りやがれ」


 ……好き放題言われているな。

 でも、俺としてもこのまま帰るわけにはいかない。

 あの野菜はカーティス村のみんなが一生懸命育てた野菜だ。いくら商会の存在そのものがなくなってしまったからといって、すんなり引き下がれない。

 それに……この商会には他にも問題があるようだ。


「早くしろ! うちはてめぇらみてぇな貧乏くさい田舎モンと違って忙しいんだよ!」

「違法とされている種の武器を売買して法外な利益を得ているってところか」

「っ!?」


 俺がそう告げた途端、エイゲンバーグ商会代表の顔つきが一変する。


「何を根拠にそんなことを……?」


 少し焦りの見える表情でそんなことを言うので、俺は自分が立っている場所で足踏みをしてみる。


「ここだけ床の音が違う。恐らく、下は収納用にスペースが設けられているんだろう。得意先が来店したら、そこから商品を出して受け渡す算段か。下手に部屋の奥へ案内させると怪しまれるから、あくまでも店頭に並べられている商品をわたしているだけと装っているあたりが狡猾だし、何より手慣れている。もしかして、他の国で同じようなことをして国外追放の処分にでもあったか?」

「なっ!?」


 分かりやすく動揺するエイゲンバーグ商会代表。

 まあ、ありがちな手口なんだよなぁ。

 王都ではもう何軒か摘発されているし。

 ――俺が指摘したのとほぼ同時に、武器を手にした屈強な男たちが店の奥からぞろぞろ出てきた。





※本日も18時と21時にそれぞれ投稿予定!

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