第31話 商業都市グラッセラ

 収穫が終わるとすぐさま商業都市グラッセラへ向けて出発する。

 野菜は鮮度が命。

 目的地まではかなりの距離があるものの、可能な限り早く着いて、取引のある商会へ渡さなければならない。


 村人たちから収穫した野菜をグラッセラに持っていくメンバーの中で、リーダー的な存在を発揮しているのがレスケルという名の青年だ。

 年齢は俺よりも二歳若く、褐色肌の肌にいつも巻いているバンダナがトレードマーク。

 彼はもともと王都で商売をやっていたそうだが、朝市で売られていたカーティス産の野菜のうまさに感激して移住したという珍しい人。そのまま王都で商売を続けていたら安定した生活を送れただろうに、それを投げ捨てて農業に専念したいとは……思っていてもなかなか実行できるものじゃない。


「いやぁ……緊張しますね」


 初めて任された大役とあって、レスケルは緊張していた。

 とはいえ、商会は古くから付き合いのある人物のようで、事前にガナン村長がレスケルのことを手紙で伝えてあるという。なので、彼がやることは野菜を受け渡して代金をもらい、そのまま無事に村へ戻るというシンプルなものだ。

 まあ、第三者は横から見て言うだけなのでまだ気楽だけど、当のレスケル自身は相当プレッシャーを感じているようだ。

 

 しばらく馬車を走らせていると、少しずつ建物が増えていく。それは次第に数を増やしていき、やがて目の前に大きな門が現れた。門の周りは高い壁で囲われており、侵入者を防ぐ役割を果たしている。

 俺はその光景に圧倒された。


「名前は以前から聞いていたが、まさかこれほどの規模だったとは……王都と遜色ないんじゃないか?」

「グラッセラはランドバル王国にとって経済や流通の中枢と言える場所ですからね。ここは他国から来る商人も多く、王都に比べると商売に関する制限が緩いというのも特徴です」


 なるほど。

 外国から来た商人がその国の王の居城がある都市で大きな顔をしながら商売をされるのは確かに面白くないか。


 俺たちは門の前で通行証のチェックを受け、それから積荷のチェック。さすがに国内では王都を除いてトップに君臨する大都市。警備体制も万全だ。

 グラッセラの中へ足を踏み入れるのにだいぶ時間を要したが、無事に通過。

 その内部は俺の想像を遥かに超えていた。


「なんて賑わいだ……」


 王都の朝市に匹敵――いや、昼過ぎという時間帯を考慮すれば、こっちの方が賑わっているくらいじゃないか?

 種族や国籍にとらわれず、商売をやりたい者は正規の手続きさえ踏めば誰でも受け入れるというのがこの町の流儀らしい。その考えが、この喧騒につながっているのだろう。


 俺たちは馬車に乗ったまま目的地である商会の建物を目指す。

 道路の幅はかなり広く、ちゃんと通行人と馬車で進む道が分けられていた。町の中央には運河が流れており、港もたくさんの人で溢れかえっている。この賑わいを遠くから眺めているだけでも一日が潰せそうだ。


「あそこです。あの角の建物が商会の拠点となっているんです」


 運河近くに建てられた石造りの建物。

 レスケルはそこが最終的な目的地だと告げた。


「早朝に収穫して昼過ぎには到着か……これなら鮮度も問題ないな」

「あそこには転移魔法を使える者がいるんです。その魔法で注文があった各都市に野菜を運んでいます」

「そういう仕組みなのか」


 それなら時間も気にしなくていいし、何より鮮度を保てるから便利だな。

 

 俺たちは建物の前に馬車をとめると、すぐさま積荷を下ろす作業を開始。

 ただ、先に挨拶をしておきたいというレスケルのため、俺と数人の村人が建物の内部へと入っていった。

 すると、すぐにひとりの若い男がやってくる。


「何者だ、あんたら?」

「わ、我々はカーティス村から来た者です」

「カーティス?」


 不機嫌そうな顔でこちらをジロジロと眺める謎の男。

 なんか……態度が悪くないか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る