第36話 これから
騎士団内でハンクへの疑いが強まっている――ミラッカは短く端的にそう言った。
ところが、どうも根っこはもっと深い部分にありそうだと続ける。
「最近、ソラード騎士団長の動きが妙なの」
「ソラード騎士団長が?」
ハンクへの疑惑の話題から、なぜソラード騎士団長が出てくるのか……最初はピンときていなかったが、王国議会でふたりがコソコソと話し合っている様子が目撃されたと聞き、俺も疑いの目を持つようになった。
「ハンクとソラード騎士団長が結託しているのか?」
「でも、それってソラード騎士団長にとっては何のメリットもないですよね? むしろ優秀な聖騎士という称号を持つジャスティン先輩が王都防衛の任務を離れて農作業で勤しんでいるなんて、我慢ならないはずです。騎士団長という立場にある者としては、なんとしてでも連れ戻そうと再調査を依頼するとか、そういう動きを見せてもいいのに……」
「農作業?」
「……それは忘れてくれ」
俺の言葉を耳にしたエリナはハッとなって口を手でふさぐ。
……手遅れなんだよなぁ。
ミラッカはあえて聞かなかったことにしてくれたけど。
「まあ、ともかく、エリナの言うように本来ベローズ副騎士団長がやっていることをソラード騎士団長が率先してやらなくちゃいけないのに、そういう素振りを一切見せず、逆に疑惑を持たれているハンクへ接触を試みているのが気になるのよ」
「探りを入れているとか、そういうわけじゃないのか?」
「だったら、他の騎士にひと言相談があってもいいんじゃない?」
「確かに……」
ミラッカの指摘したように、騎士団長の妙な動きは気にかかる。
この辺はこれから詳しく調査をしていくらしい……それにしても、俺の左遷問題なのに肝心の俺自身が何もできないというのが悔しいな。今の騎士団ではまともに取り合ってくれないだろうし。ここは仲間たちを頼るしかない。
経緯をひと通り話し終えると、ミラッカは最後にひとつだけと言って俺をジッと見つめる。
「あなたは……本当に王都へ戻りたいという気持ちがある?」
「えっ……?」
急に尋ねられ、俺は思わず面食らった。
こちらの動揺を察したミラッカは、質問の意図を説明する。
「ガナン村長の家でみんなと話している姿を横から見ると、あなたはとても充実した日々をここで過ごしているというのが伝わってきたわ。同時に、村の人たちもあなたをとても頼りにしているみたいだし……離れられなくなってないかなって」
「それは……」
さすがはミラッカだ。
よく見ている。
思い返せば、彼女は昔からそうだった。的確な分析で、こちらが気づいてないことをズバッと指摘する。今回の件だって、内心そうじゃないかと感じつつ、王都復帰を目指していたところがあった。
「相当悩んでいるようね」
答えあぐねていると、ミラッカはニコッと微笑みながら言う。この場合、沈黙が何よりの答えだと受け止められたようだし、実際そうなのだ。
「答えられない」――それが、今の俺の素直な気持ちだった。
「王都へ戻ってくるか来ないかの判断はあなた自身に委ねるわ。――私たちはあくまでもあなたの無実を証明するという点に力を注ぐだけよ」
「……すまない、ミラッカ」
「謝らないでよ。私個人としては、あなたにもそういう一面があるだと知れて嬉しかったわ」
相変わらずフォローもうまい。
彼女には頭が上がらないな。
これにて話し合いは終了となった。
最後に、近々二回目の王国議会が予定されており、場合によっては俺も本人証言のために出席する必要があるかもしれないと教えられる。
王国議会か。
警護任務で外から眺めていた程度で、まさかそこに自分が加わるなんて夢にも思っていなかったな。
まだ決定したわけじゃないけど、覚悟はしておいた方がよさそうだ。
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