第28話【幕間】動きだす闇

 王国議会が終わり、ジャスティンの去就を巡っては新たな展開を見せ始めていた。

 中でも、騎士団内部からは再調査の必要がないという意見が強く出されており、その背景には間違いなくソラード騎士団長の意向が強く反映されていた。


「どういうことかねぇ……」


 執務室でジャスティンの不正に関して独自の調査を行ったゲイリーとミラッカの報告書を眺めていたベローズ副騎士団長はため息を交えつつ首を傾げた。

 彼らの調査結果は最終的に「ジャスティンの無実を証明できる物的証拠を見つけられなかった」という言葉でしめられていたのだ。

 

 つまり、現段階ではジャスティンの罪を晴らせないことになる。ただ、これについては実際に調べていたふたりから不満が噴出した。


「申し訳ありません……いろいろと手を尽くしたのですが、関連資料を閲覧する許可がなかなか下りず……」

「私の名前を出しても無理ということは、間違いなくソラード騎士団長の手が及んでいるわけか」


 副騎士団長より上の立場となれば、もう騎士団長しか残されていない。不可解なのは、なぜソラード騎士団長が事件の真相を闇に消そうとしているのかという点だった。


「一体何が目的なのでしょうか……」


 不安げにベローズへと尋ねたのはミラッカであった。

 今回の件は同期で友人でもあるジャスティンの無実を晴らすためにかかわっているが、もしかしたら過去にも同じような理由で不当に騎士団を追われた者がいるかもしれない。そしてそれは近い将来に自分が該当者となる可能性も秘めていた。


 ベローズはミラッカのそんな不安を見透かしてか、あえてその部分に触れながら自身の考えを述べた。


「騎士団って組織はいつだって人員不足だ。誰でもすぐにできる仕事じゃないし、命を失う可能性もある。現に入団志望者は年々減少しているしな。……だからこそ、ジャスティンのような有望な騎士をあんな杜撰なやり口で追いやっていいわけがない」


 王国内ではにわかに「この件にはこれ以上かかわるな」という空気が漂っている。知らないところで誰かが圧力をかけているのか、最近では話題にすらあがらなくなってきた。


 このまま事件を風化させようとする動きが見え隠れする中、そのようなことは断じて許されないと立ち上がったベローズたち一部の騎士は、何も言い返せないほどの決定的な証拠を求めていた。


 しかし、黒幕もそんな弱点を野放しにしておくはずがなく、どこを調べても出てはこなかったのだ。


 ――ただ、怪しいと睨むひとりの騎士がいた。


「ベローズ副騎士団長……俺はハンクがこの事件に深く関与していると睨んでいます」


 そう口にしたのはゲイリーだった。


「ヤツは常にジャスティンを目の敵にしていました。特に――」

「エリナがジャスティンの隊に配属となってから、だろう?」


 これについてはベローズも薄々勘づいていた。騎士団ないでは自分への評価を上げようと実力を度外視して娘であるエリナを褒め称える者ばかり。おまけに、あわよくば自分の妻として迎えたいとエリナ自身にもちょっかいをかけてくる始末。

 中でもハンクの評判の悪さはピカイチだった。

 エリナは騎士団内の風紀が乱れないよう露骨にハンクの悪口を言ったりはしなかったが、はたから見ていてもしつこかったらしく、きっと鬱陶しかっただろうなとベローズは思い返していた。


「私自身の目で彼のエリナに対する態度を見ていないのでなんとも言えないのだが……かなりひどかったらしいな」

「彼女はあまり気にしていない――というより、眼中になかったと思います」


 バッサリと切り捨てるミラッカ。

 しかし、それが嘘偽りのない正当なエリナのハンクに対する評価であった。


「とはいえ、ヤツは実家が太いですからねぇ……いろんなアプローチを仕掛けてくるのではないかと」

「だからジャスティンのもとへ送ったのだ。彼ならば色眼鏡であの子を評価することはないだろうし、何より健全だ」

「「あぁ……」」


 ゲイリーとミラッカはすんなり納得した。

 ジャスティンは上昇志向こそあるものの、曲がったことが嫌いな性格なので不正に手を染めるなど考えられない。実際、彼の無実を信じている者たちは、彼のそういった人間性を知っているからこそ声をあげているのだ。


 ただ、同時にエリナへは少し同情的な思いを抱く。なぜなら、彼女は間違いなくジャスティンに対して先輩後輩以上の感情を抱いているからだ。はたから見ていたら分かりやすいが、騎士団でそれに気づいていないのはジャスティンくらいのものである。


「では、ソラード騎士団長の動きは俺が見張ろう。ゲイリーは他の者と協力してハンクの周辺を調べてくれ。ヤツの方が何かと脆い分、いろいろと出てくる可能性は高いだろう。第二回の王国議会までに、少しでもヤツらの牙城を崩せる証拠が欲しいからな」

「了解しました」

「ベ、ベローズ副騎士団長、私は?」

「ミラッカには別件で頼みたいことがある。アボット地方へと出向き、ここまでの経緯をジャスティンに知らせてくれ。状況次第では本人証言を求められるかもしれないからな」

「分かりました」

 

 こうして、「ジャスティンを復帰させる会」のメンバーはそれぞれが次の段階に向けて動きだしたのだった。




※このあと12:00、18:00、21:00に投稿予定!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る