第27話 ドラゴンと大宴会

 一時はどうなるかと思ったが、カーティス村近くの湖に潜んでいたのは話の分かるドラゴンだったため、最悪の状況を逃れることはできだ。

 何より大きかったのはドラゴンのアスレティカとドイル様が意気投合したということ。

 あの方は俺よりもずっと若いが、人を見る目は確かだ。これについてはブラーフさんとマリエッタさんが口を揃えて豪語しており、何より王都から曰く付きでここまで飛ばされた俺をすんなり受け入れてくれたところで十分それが理解できる。


 ちなみに、アスレティカが正式に湖へと移住すると決まった途端、やはり宴会をしようという話が持ち上がり、村人たちは早速準備に取りかかった。


「宴会……なんとなく耳にした記憶のある言葉じゃが、それは何か祝い事がある際にやるものではないのか?」

「アスレティカを新しい村民として迎え入れる――カーティス村の人たちにとって、それがとても嬉しい祝い事なのさ」

「ワシを受け入れてくれるだけでなく、祝ってくれるというのか?」


 アスレティカは動揺していた。

 きっと、これまでも何度か人間とかかわりを持った経験があるのだろう――が、あの反応を見る限りでは、良好な関係を築けたとは言い難い。

 しかし、カーティス村の人たちはアスレティカを受け入れ、それだけにとどまらず祝福のための宴会を開こうというのだ。これは彼にとって前代未聞だろう。


「不思議な村じゃな、ここは」

「俺もそう思いますよ」


 宴会の準備が着々と進められる中、俺も手伝いに行こうとした時、


「ありがとう、ジャスティン」


 突然、アスレティカがお礼の言葉を口にした。


「お礼を言うなら、俺よりも村人たちじゃないか?」

「もちろん彼らにも深く感謝している。じゃが、彼らとワシをつなぎ合わせてくれたのは間違いなくお主だ」

「俺が? どうして?」


 特に何もしていないって感覚なんだよなぁ。

 実際にこの湖で暮らしていいと決めたのはドイル様だし、宴会の言い出しっぺは村長のガナンさんだ。彼らに礼を言うなら分かるが……なぜ真っ先に俺なんだ?


「ワシが最初に姿を見せた時、お主は仲間を逃がして時間を稼ごうとしたろう? しかも逃がした仲間には村へ危機を伝えるよう指示をだし、あくまでも自分が犠牲になることで他者が少しでも逃げやすい環境になるよう腹を括った」

「あの時はああするしかないと思ったからな」


 そもそもアスレティカが話せるという事実がハッキリしていなかったので、とにかく俺はできることをやろうと必死だっただけだ。

 でも、その行動が彼に衝撃を与えたらしい。


「かれこれ五百年以上生きておるが、ワシの姿を目の当たりにした人間で仲間を守るために立ち向かってきたのはお主だけじゃったよ」

「えっ? そうなのか?」

「多くの者は逃げまどい、中には仲間をワシへの供物として捧げるとまで言った外道もおったな。それから始まるのは見るに堪えない言い争いだ」


 これだけの巨体を目の前にしたら、逃げだしてしまうのは仕方がないと思う。

 ただ、自分が助かりたいがために仲間を売るような行為は最低だ。アスレティカはこれまでそういった光景を嫌というほど見てきたのだろう。


「じゃが、君はそうしなかった。仲間を守るために戦える者ならば、信用して話ができると思ったからこそ声をかけたんじゃ」

「なるほど……そういった事情があったのか」


 俺としてはまったくそのような意図はなかったのだが、結果としてアスレティカの心に響いたようなのでヨシとしよう。


「せんぱーい、手伝ってくださいよぉ」

「おっと、今行くよ」


 大きな酒樽を運んできたエリナに呼ばれ、俺はアスレティカに「ゆっくり待っていてくれ」と告げてから駆けだす。

 今回の宴会はこれまでとは少し異なり、会場はこの湖周辺で行われる。アスレティカの巨体が村の中へ入ると、無意識のうちに尻尾や翼が接触して家屋を破壊しかねないという不安があったからだ。


 少しずつ日が傾いていき、夕暮れを迎える頃にはほとんどの準備が完了していた。

 唯一村人たちが不満に感じているのは酒が足りないことのみ。

 ここのところ宴会続きだったからなぁ。

 さすがにストックが切れてきたらしい。


「こいつは王都に行って大量に購入してこないとダメですね」

「うむ。次に行商が村を訪れるのは二ヶ月だしなぁ」


 村人とガナン村長が持ち込まれた十以上の酒樽を眺めながら言う。これでも結構な量になるのだが、この村の者たちにとっては心もとないのだろう。


 しばらくすると、今度はできたての料理が運ばれてくる。

 さらに酒の席には欠かせない楽しい音楽を奏でるための楽器まで持ち込まれた。


「ほぉ、こいつは凄い」


 人間たちが楽しむ宴会は、ドラゴンであるアスレティカの想像を超えていたようだ。その巨体や鋭い爪牙には不釣り合いなほどキラキラに瞳を輝かせて準備する様子を眺めている。


 夜になると、月明かりの光だけでなく、発光石を埋め込んだランプがあちらこちらに設置され、いつもとはちょっと雰囲気の違った宴会場が完成した。


 その後、ドイル様の音頭で乾杯が行われていよいよ宴会がスタート。

 

 まず、料理や村の特産品とも言うべき果実酒をアスレティカへと振る舞う。


「おぉ……どれもうまいな」


 どうやら、カーティス村の郷土料理や酒はアスレティカの舌に合ったらしい。


「いやぁ、湖のほとりでやる宴会というのもオツですなぁ」

「月を肴に酒を飲む……なんだか新鮮だな」


 村人たちも酒と食事を満喫中。

 村が崩壊するかもしれないという危機から一転し、なんとも楽しい夜となった。






※明日は7:00、12:00、18:00、21:00と4話投稿予定!

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