第25話 ドラゴンからの相談

 まさかドラゴンから相談を受けるなんて、夢にも思っていなかった。

 ただ、敵意を感じない。

それに、物腰が柔らかで人間の言葉を理解して会話が成立するので意思疎通が確実にできるというのが大きかった。これなら普通に話し合いができると判断した俺は、ドラゴンからの相談を聞いてみることに。


「叶えられる範囲であれば、協力をするつもりだ」

「それはありがたい。何かをやってもらおうというわけじゃなく……むしろその逆で、しばらくこの湖で暮らす許可をもらいたいのじゃ」

「湖に住む許可だって?」


 これはまた意外な提案だ。

 問題は……完全に俺ひとりでは判断できないという点か。

 領主であるドイル様の意見は絶対に必要となってくるだろう。


「その問題については俺だけの判断ではどうにもできない。しばらく待ってはくれないか?」

「もちろんじゃ」

「答えが出るまでの間はここにいてもらってもいいよ」

「ありがたいのぅ。感謝するよ」


 暴れ回るようなタイプじゃなさそうだし、とりあえず答えが出るまでの間はおとなしくしていてもらおう。


「さて……村へ戻るか」


 今頃は大騒ぎになっているだろうカーティス村へ戻り、事態の報告をしなければならない。

 果たして、ドイル様はなんて言うかな?



 村へと戻った俺はすぐに事情をみんなに説明する。


「ドラゴンがそんなことを……」


 やはり困惑しているな。

 当然だ。

 いきなり「ドラゴンから相談事がある」なんて言われて「はいそうですか」とすんなり受け入れる方がどうかしている。

 ただ、このあとでドイル様は意外な提案をしてきた。


「そのドラゴンだけど……僕も会えないかな?」

「ド、ドイル様!?」

「き、危険ですぞ!」


 真っ先に反応したのはメイドのマリエッタさんと執事のブラーフさんだった。そりゃそうなるよなぁ……大人しそうとはいえ、それが本心であるかは分からない。実は虎視眈々と俺たちを狙っている可能性だって残されてはいるのだから。


 だが、ドイル様の表情に先ほどまでの動揺はすでに消えていた。


「このアボットの地で暮らしたいと考える者がいるなら、領主としてちゃんとした対応を取るべきだと思うんだ」

「そ、その心意気はお見事ですが、何せ今回はドラゴン……人間相手とは訳が違いますぞ」


 ブラーフさんの言うことはもっともだ。

 かなり賢いドラゴンだとは思うが、こちらの常識が通用するかどうかは分からない。

 その後、話し合いは平行線のまま発展する気配を見せず、なかなか良い着地点が決まらない状態が続いていた。


 埒が明かないと判断した俺は、


「こうなったら全員揃って湖へ向かうというのはどうです?」


 半ばヤケクソ気味にそう提案してみる。

 すると、


「それはいいね。ジャスティンやエリナも一緒に来てくれたら怖い物なしだよ」

「まあ……ジャスティン様も同行してくださるのでしたら」


 ドイル様とブラーフ様の意見が初めて一致する。

 ……というか、俺もエリナも最初からついていくつもりではいたんだけどなぁ。


 さらに、同行者はそれだけではなかった。

 マリエッタさんをはじめとする全使用人と、村人たちも総出で湖へ一緒に向かうという話になったのだ。


「領主様だけをドラゴンのいる湖に行かせるわけにはいかねぇ!」

「そうだ!」

「どこまでもついていきますよ!」

 

 さすがは領民たちから絶大の信頼を寄せられている若き領主。ここまで言わせるほどの領主が、果たして国内に何人いることやら……素直に感心するよ。


 結局、湖へはこの場にいる全員で向かうこととなるが、さすがに数が多すぎるのでまずは最初に顔を合わせた俺とエリナ、そしてリンデルのふたりと一匹で話をする流れで決定したのだった。





※本日も18:00と21:00にそれぞれ投稿予定!

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