第21話 湖へ
一夜が明け、湖を調査する日がやってきた。
「頼りにしているぞ、リンデル」
「わん!」
元部下であるエリナの加入は心強い。かつてともに凶悪なモンスターへ立ち向かっていった仲間ということもあって信頼関係もバッチリだ。
ちなみに、湖までの移動手段は馬車になる。
しかも、領主であるドイル様が俺たちのためにと提供してくれた物で、なんと二頭の馬までつけてくれたのだ。
『領民たちのために頑張ってくれている君たちの力になりたいんだ』
と、言って、昨日のうちに一式用意してわざわざ持ってきてくれた。一度屋敷に戻るという手間までかけてもらって……ありがたい限りだ。
馬の扱いにかけては、俺もエリナも経験がある。そもそも、騎士団に入ってまず教えられるのが馬の乗り方だったり、世話の仕方だからな。まさに戦場での頼れるパートナーっヤツだ。
その馬を管理しておく厩舎が必要になるなぁと思っていると、すぐさまガナン村長たちが駆けつけてくれて、俺たちが湖へ行っている間に作っておくと約束してくれた。
本来人を助けるべき立場にある騎士が、さまざまな場面で守るべき人たちの力を借りているという現状……情けなくも思うが、その分、この村の危機には命をかけて戦おうという気持ちにさせてくれる。
この村へ来る前は、そんなこと考えもしなかった。
それはたぶん、助けたいと思う人たちが目の前にいるかいないかの違いなのだろうな。そりゃあ、王都にはたくさんの人がいるので、彼らを守るために戦地へ赴くという気持ちではいたものの、カーティス村に暮らす人々とは距離感がまるで違う。
より身近で、気軽に挨拶を交わせるくらいの間柄になった今――俺はこの村に骨をうずめても構わないってくらいの意気込みを抱いていた。子どもたちに剣術を教え終えてもいないからな。
「先輩、準備が整いました!」
「分かった。じゃあ、すぐに出発を――って、あれ?」
湖に向けて村を発とうとした時、駐在所を目指して多くの村人たちが集まってきた。全員何やら神妙な面持ちで俺とエリナを見つめている。
「ふたりとも……気をつけてな」
全員を代表して、ガナス村長がそう告げる。
どうやら、俺たちが心配になって見送りに来てくれたようだ。
パーカーや子どもたちはすでに泣きべそをかいている。
村人たちから溢れるオーラは、これから俺たちが命を落とす確率の高い超危険な戦場の最前線へ送りだされる者を見送るレベルであった。
「だ、大丈夫ですよ! モンスターはいるそうですが、今回はあくまでも様子見ですから!」
「そ、そうですよ! この程度なら何も問題ありませんよ! 王都勤務の時はもっと危険な仕事も山ほどありましたし!」
集まってくれた村人たちを安心させようと、俺とエリナは必死に言葉を並べる。
騎士団に所属している俺たちにとってはなんでもないことでも、平和そのものといった感じのカーティス村では一大事というわけか。
それから一時間ほど経って、ようやく村を出発。
予定よりだいぶ遅れてしまったが、もともと今日は湖の周りにテントを張り、夜通し交代で見張りをする予定だったのでそれほど問題はない。
「それにしても、村の人たちの反応には驚いちゃいましたね」
御者を務める俺に、荷台のエリナが笑いながら言う。
「まあ、普段からそういう事態に直面した経験のない人からすれば、モンスターと対峙するというのは大事件だからな。ましてやこれまで騎士という存在にほとんど接点のなかった村とくれば、あんな反応になるのも無理はないよ」
「ですね。でも……あんな風に悲しんでくれるくらい、私たちのことを心配してくれているんだって分かったら、嬉しくなっちゃいます」
エリナの言う通りだ。
俺たち騎士団は、周囲からすると「体を張ってなんぼ」という目で見られるケースが圧倒的に多い。国民からすれば、税金で運営されているのでそれが当たり前の感情かもしれない。
「本当にいい人たちですよねぇ」
「まったくだ。みんなのためにも、モンスターがいたらキチンと討伐をしておかなくちゃな」
「はい!」
「わん!」
「ははは、リンデルにも伝わっているみたいだな」
村人たちからの見送りもあって、俺とエリナ、そしてリンデルの士気は急上昇。
なんとしても任務を遂行しなくちゃな。
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