第22話 湖に潜むモノ
ドイル様の言った通り、カーティス村からの例の湖まではそれほど離れておらず、ほんの小一時間ほどで到着。これなら村で何が起きてもすぐに戻って対処できるな。
「うーん……綺麗ですねぇ。村の近くにこんな大きな湖があるなんて驚きました」
「あぁ、俺も知らなかったよ」
こっちは魔狼と戦った森と反対方向にあるからな。
用件がないと立ち寄らない場所だ。
「モンスターを目撃したという行商は、あそこのビルダス山を越えてランドバル入りをしているらしい」
「随分と遠距離ですねぇ……」
「あの手の行商は年中どこかを旅しているようなものさ。家族がいる者でも、家に帰れない日の方が圧倒的に多いらしい」
「子どもや奥さんは大変ですね」
それを言うなら、常に命の危険がある騎士団も大概だ。遠征が入れば、行商人のように何日も家を空けなくちゃいけなくなるし。結婚には向かない職業だよなぁ。
でもまあ、ベローズ副騎士団長はあの地位にいてエリナを立派に育てているし、奥さんの協力もあればやってやれないことはないのか。実際、騎士団に既婚者が少ないかと言われたらそうでもないし。
「それにしても本当にいいところですねぇ……仕事じゃなかったらのんびりピクニックといきたいところです」
「気持ちは分かるが、気を引き締めていけよ。何せ相手は正体不明のモンスターなんだから」
「心得ていますよ」
そうは思えないのんびりとした口調だが、エリナはどこでも大体こんな調子だから問題ないだろう。
「やれやれ……相変わらず緊張感とは無縁の――うん?」
馬を近くの木につなぎとめ、荷台からテントを取りだして設営をしようとしたその時、リンデルがいないことに気づく。
どこへ行ったのかと辺りを見回していたら、湖の方をジッと見つめて――いや、あれはどちらかというと睨みつけてと言った方がよいか。いずれにしろ、湖の方向に何かの気配を感じ取っているようだった。
「何かいるのか、リンデル」
「ぐうぅ……」
低く唸り、警戒心をあらわにするリンデル。
これは只事ではないな。
エリナもリンデルの異変に気がついたようで、こちらに駆け寄ってきた。
「何かを見つけたんでしょうか?」
「湖面には特に異常を確認できないが……まさか、水中にいる敵を認識できるのか?」
リンデルはあまり見かけない赤色の毛をした犬……ひょっとして、ただ珍しいというだけじゃなく、何か特別な力が隠された存在とかじゃないのか?
リンデルの可能性について考えていたら、
「せ、先輩! あれを見てください!」
突然声を張りあげるエリナ。
彼女の指さす方向へ視線を向けると――湖の中心部に大きな波紋が見える。
あそこに何かいる。
それも、かなり巨大な生物だ。
「モンスターのお出ましというわけか」
行商人は詳しい正体について言及をしなかったということで半信半疑だったところはあったが、どうやら真実を口にしていたらしい。
とにかく、戦闘になりそうな気配なので俺とエリナは剣を抜いて相手の登場を待つ。
そして――ついにモンスターがその姿を現した。
本日も18:00と21:00にそれぞれ投稿予定!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます