第20話【幕間】騙し合いの王国議会
ジャスティンとエリナが湖へ向かう準備を始めたのと同時刻――ランドバル城内にある議会場では、ある議題について論戦が起きていた。
中心にいたのは騎士団の運営を横領した罪に問われ、その代償として王都から追いだされたジャスティンであった。
ベローズ副騎士団長は証拠不十分として異議を唱え、事件の再調査を騎士団幹部や各大臣に訴える。これにはジャスティンの同僚であるゲイリーや、同じく同僚で仲の良かった女性騎士のミラッカなど、多くの騎士たちからも異議が寄せられた。
最初は全員が半信半疑といった様子でベローズの話を聞いていたが、彼が密かに集めていた事件に関する調査書があまりにもお粗末な出来だったので、【ジャスティン無実説】はその信憑性を増していった。
さらにベローズはトドメとばかりに大声で叫んだ。
「以上のことから、ジャスティン・フォイルは何者かによって犯人に仕立て上げられ、弁解の余地すら与えられず、不当にこの王都から追放されたと私は考えます」
言い終えた直後、ベローズの視線はある人物へと向けられた。
それはハンク――ではなく、そのすぐ隣に座る白髪の偉丈夫。
ランドバル王国騎士団のトップであり、ジャスティンにアボット地方勤務を告げたソラード騎士団長だった。
ベローズが席へ戻るまでの間に、ハンクは何度かソラードへ話しかけていた。ソラード自身はそれに対して特に慌てる様子もなく、ひと言だけ告げて終わる。まるで相手にしていない様子だ。
ベローズの脳裏には、「もしかしたらソラード騎士団長がハンクに言いくるめられているだけではないのか」と疑いを持つようになった。
ここのところ、ソラード騎士団長の言動には不可解な点が多い。
中でもベローズが一番気になっているのは、自分の行動を他人に悟られないよう表立って動くことが激減し、その動向についてまったく報告を受けていないというものだ。
王家から極秘の依頼を受けているというなら、副騎士団長である自分に何らかの相談があってもいいようなものだが、それすらしない。ゆえに、ベローズは以前からずっと気にかかっていたのだ。
――結局、王国議会の場での判断は避けられた。
だが、これまでと違って上層部の間でも意見は揺らいでいる様子がある。少なくとも、上層部のすべてがジャスティンの案件に絡んでいるわけではないというのも分かり、それだけでも収穫と言える。
「さて、どうなりますかね」
「かなり動揺しているようでしたけど」
同じく議会に参加したゲイリーとミラッカは手応えをベローズへと尋ねた。
「お偉いさんたちの考えていることはよく分からんが……一石を投じたと思えば意味のある議会だったよ」
とは語るものの、まだ油断はできない状況だ。
ジャスティンを純粋に戦力として見れば王都防衛に欠かせない逸材だというのは理解できるはず。それに、横領疑惑が出た一方でこれほどの数の騎士が異議を唱えたとあっては虫もできないだろう。
幸いだったのは、まだ上層部の中に正しい心を持った者たちが数人残っていたという事実。確実にジャスティンを陥れたいのなら全員を抱き込めばいいのにそれをしなかったのは金になびかない本物の騎士がいたことに他ならないのだ。
ベローズはそこに賭けてみようと結論をだしていた。
「ゲイリー、ミラッカ」
「「は、はい!」」
「次は……少し派手に動いてみるか」
優秀な若者の未来を救うため、事件の真相に近づくため、ベローズは危ない橋をわたる覚悟を決めたのだった。
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