第19話 騎士らしい仕事

 カーティス村に赴任してから一ヵ月近くが経つものの、その間に剣を振るったのは魔狼の時の一度だけ。

 まあ、鍛錬ではしっかりと振り込んでいるし、模造剣だがエリナと実戦形式での対人修行もこなしている。あと、パーカーをはじめ、希望している村の子どもたちに剣術を教えているのだが、それを通して俺自身もまた違った角度から知識を得ることができた。弟子になりたいと言ってこの機会を与えてくれたパーカーには感謝しないといけないな。


 というわけで、実戦から遠ざかっているのは変えようのない事実だが、その穴を埋めるための努力は積んでいる。なので、ドイル様の言う「騎士らしい仕事」とやらもしっかりこなせるだろうという自信は俺もエリナも持っていた。


 そのドイル様は、持参した地図を駐在所にあるテーブルへと広げた。


「ここに大きな湖があるんだけど、うちに出入りしている行商が大型のモンスターを目撃したと言っていてね。それも何回か目撃しているらしく、どうもそこに住み着いてしまっているようなんだ」

「大型のモンスターですか」


 確かにこれは騎士団がよく請け負う仕事だ。俺も何度か似たような任務であちこち出張っていった記憶がある。同じ隊にいたエリナも経験は豊富だ。

 

「湖となると、潜んでいるのは水棲モンスターでしょうかね」

「可能性は高いが……今のままでは情報不足は否めない。ドイル様、その行商は他に何かモンスターの特徴を言ってはいませんでしたか?」

「特にこれといってはなかったけど、水中に潜んでいるというのは間違いないようだね」


 なるほど。

 エリナの言う通り、水棲モンスターで決まりのようだな。

 しかし、これまで海で大型のイカ型やカニ型といったモンスターと戦った経験はあるが、湖に出現する水棲モンスターとは戦闘経験がない。


 考えられるのは魚かカメかカエルか……水の中を動き回るヘビもいるって聞いたことがあるな。まずは現地に行って詳しく調べてみる必要がありそうだ。


 ただ、そうなるとひとつ問題が。


「俺やエリナが留守になると、ここを守る者がいなくなってしまいますが……」

「ここから湖まではそう遠くないし、何かあったら緊急連絡用の花火をあげるようにガナン村長へ伝えておくよ」

「分かりました」


 まだ正体については何もつかめていないが、仮に陸上での活動も可能な、両生類の特性を合わせ持つモンスターだった場合、村で飼育している家畜が狙われる可能性もある。


 サントスさんの牧場も手伝っているが、牧草を運んだり厩舎の掃除だったりやることが多くて非常に厳しい仕事だ。手塩にかけて育ててきた動物たちがモンスターのエサになるのだけは避けたい。


「ドイル様、必ず我々でモンスターを討伐してまいります」

「よろしくね。あっ、でも、無茶だけはダメだよ。君たちの帰りを待ってくれている人たちもたくさんいるんだし」


 そう告げると、ドイル様の視線は駐在所の窓へと移る。

 つられて俺とエリナもそちらへ視線を向けたら、


「あっ、あの子たち……」


 窓にはパーカーをはじめ、村の子どもたちがへばりついていた。

 どうやら気になってずっと聞いていたらしい。


「子どもたちに教えることはまだ残っているのだろう?」

「えぇ……これはどんな手を使っても生きて帰って来なくてはいけませんね」


「本当に」


 俺とエリナは思わず顔を見合わせて笑う。

 もしかして……ドイル様は俺たちにこの考えを根付かせるため、盗み聞きしている子どもたちをあえて咎めず話を続けたのか?


 ――十分にあり得るな。

 あの人はそういうところ目ざといから。


「では、今日のところは準備を行い、明日の早朝からエリナとリンデルを連れて湖の様子を見てきます」

「ああ、頼むよ」


 さて、一体どんなモンスターが出るのやら……今日は剣を入念に手入れしてやるか。





※本日も18:00と21:00にそれぞれ投稿予定!

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