第18話 来訪者

 カーティス村へと飛ばされてそろそろ一ヵ月になる。

 当初は戸惑いだらけだったこの村でも生活も、今では板についてきた。早起きからの農作業も慣れたもので、いい運動になっている。

 モンスターが出現しないこの村での生活でもっとも気がかりだった鍛錬不足も、畑仕事が筋力トレーニングの役割を果たしてくれてむしろ以前より鍛えられている。


「先輩! マリアおばあちゃんがジャガイモをお裾分けしてくれました!」

「ありがたいな。今日の昼飯に使おう」


 王都にいた際は基本的に外食か、騎士団の詰め所内にある食堂で済ませていた。しかしこの村には店も食堂もないので自炊をするしかない。

実はこれまで料理をした経験がほとんどないのだが、ここでの生活が長引くうちに少しはマシになった。これもすべては料理上手なエリナのおかげだ。

ただ、その料理というのは幼い頃に父親であるベローズ副騎士団長に仕込まれたサバイバル料理ばかり。味自体は問題ないのだが……こう、なんというか、もうちょっと一般的な料理を食べたいなぁと思うこともある。

そこで、カーティス村の各家庭からいろいろとレシピを教えてもらい、現在は交代制で挑戦中というわけなのだ。


「ジャガイモを使った料理って何かあったっけ?」

「メインで扱っているメニューはなかったと思いますが、基本的になんでも合いますよね、ジャガイモって」

「まあ、そうだな。ちょうど昨日ガナン村長が狩ってきた鹿肉もあることだし、肉料理にしてジャガイモはマッシュポテトにでもするか」

「大賛成です!」


 ランチの献立は決まった。

 あとは時間まで村の見回りをして来ようと家を出る――と、


「お久しぶりです、ジャスティン様」

「えっ? マリエッタさん?」


 これから駐在所を訪ねようとしていたマリエッタさんとバッタリ遭遇。

 ただ、彼女が単独で行動するとは考えにくい。

 辺りを見回すと……やはり、トライオン家の紋章が刻まれた馬車を発見する。俺がそちらに視線を向けると、乗っているドイル様も気づいておりてきた。


「やあ、元気そうで何よりだよ」

「おかげさまで、楽しくやらせてもらっています」


『楽しく』というのは、業務上あまり適した言葉じゃないと思うけど……嘘偽りのない素直な感想なので自然を口をついて出た。


「それはよかった。王都でバリバリやっていた君からすると、こっちでの仕事は物足りないんじゃないかと思っていたけど」

「確かに戦闘機会はありませんが、有事の際はいつでも戦えるよう常に準備をしています」

「何かありましたら、私たちにお任せください!」


 胸を張って答えるエリナ。

 ふたりだけではいろいろ行動が制限されそうではあるが、この辺りは本当にモンスターと無縁でとても静かだ。交易路から外れているという事情もあってか、野盗みたいな連中もいないし、たまに俺たちの存在って必要かと考えてしまう。


 それでも、まったく危険がないかと言えばそうでもない。ちょっと前に群れから追いだされた魔狼が出たしな。あれだって、戦闘経験のない村の人たちだけで追い払おうとすれば、きっと被害が広がっていただろう。

 

 ――っと、そうじゃなかった。


「今日は何の御用でしょうか?」

「実は……君たちに騎士らしいお願いをしようと思ってね」

「「騎士らしいお願い?」」


 俺とエリナの声が重なる。

『騎士らしい』という表現に引っかかりを覚えるが……恐らく、前の会話も考慮したら、戦闘にかかわる仕事なのだろう。というか、それ以外に思いつかない。


 だが、この平穏なアボット地方で一体何と戦うというのか。


「騎士らしいというと、大型モンスターの討伐ですか? それとも野盗に占領された町へ乗り込んで殲滅するとか?」

「そこまで大規模じゃないよ。ちょっと調べてきてもらいたいんだ」

「調べる? 何をですか?」

「詳しく説明するから、中に入ってもいいかな?」

「あっ、ど、どうぞ」


 そうだ。 

 これは立ち話で済ませていい話題じゃない。

 せっかく綺麗になったばかりだし、中に入ってじっくり話を聞くとしよう。


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