第7話 新しい1日

 目を覚ますと、まだ早朝だった。

 窓の外の景色には朝霧がかかっており、まだ薄暗い。

 それでも目覚めてしまうのは騎士団時代の名残というべきか……もう十年以上にわたって早朝の自主鍛錬をし続けてきたからな。


 アボット地方での勤務では剣を振るう機会は減少していきそうだが、だからといって鍛錬をやめるわけにはいかない。むしろ腕がなまらないようにこれまで以上にしっかりやっていく必要があるだろう。

 実戦経験から遠ざかるのは避けたいところだが……こればっかりはせめて同僚のひとりでもいてくれたなぁと思う。王都からもっとも遠いこの地方へわざわざ転勤してこようという物好きはそういないだろうから望み薄だけど。


 とりあえず、剣を持って外に出てみると、驚きの光景が広がっていた。


「あれ? もうこんなに人が……」


 まだ薄暗い村の中を人が行き交っている。

 どういうことなんだと立ち尽くしていたら、ひとりの老婦人が俺の存在に気づいてニコニコ笑顔を浮かべながらやってきた。


「おはよう、騎士さん。昨夜はよく眠れたかしら?」

「え、えぇ……みなさん、朝早いんですね」

「これから農作業なのよ」


 そういえば、この村の収入源はほぼ農業だったな。

 基本的には畑で農作物の栽培をしているが、牧場を経営している者もいる。一部の村人は狩猟のために森へ出ているという。罠を仕掛けており、それの回収に向かったようだ。


「騎士さんのお仕事はもうちょっとあとでもいいんじゃない?」

「朝の鍛錬をしようと思いまして」

「あら、そういうことね。まだ冷えるから、体を壊さないようにね」

「あ、ありがとうございます」


 穏やかな口調の老婦人は最後にそう言葉をかけてくれた。

 俺は自分の家族を知らないけど、もし祖母がいたらあんな感じだったのだろうか。

 そんなことを考えつつ、鍛錬のため家の裏側に回った。道端で剣を振り回すわけにはいかないので、少し離れないとな。

 住む場所として提供してくれたこの家には、なんと裏庭がついている。前の住人がやり残した家庭菜園サイズの畑もあるので、生活が落ち着いたら取り組んでみようかな。


 それからしばらくは王都でやっていた時と同じ鍛錬をこなしていく。

 日が昇ってくると、畑仕事にひと区切りをつけた村人たちが戻ってきた。中にはまだ小さな子どももおり、親子揃って楽しそうに話をしながらそれぞれの家へ。どうやらこれから朝食ってところが多いらしい。


「畑の様子を見に行ったってくらいか」


 本格的な作業はこれから始まるのだろう。

 俺も腹が減って来たし、戻って朝食に使用かと思っていたら、


「騎士さん! 大変だぁ!」


 ひとりの中年男性が慌てた様子で俺のもとへと走ってくる。

 かなり取り乱しているようだが……一体何があったんだ?




※今日はこのあと18:00と21:00にも投稿予定!

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