第6話【幕間】カギを握る男

 ランドバル王国騎士団は衝撃に包まれていた。


 数日前に将来を有望視されていた若手のホープであるジャスティンが地方へ飛ばされるという事態が発生したばかりだというのに、今度はベローズ副騎士団長の娘で多くの騎士たちが思いを寄せているエリナ・ベローズがジャスティンのサポートをするという名目で同じくアボット地方へと転属になったのである。

さらに、彼はジャスティンの横領事件自体にも疑問を抱いており、再調査を依頼しようと動きだしているとのこと。


 これに騎士団は騒然となった。

 罪を犯したとされるジャスティンが左遷させられるのは理解できるが、なぜエリナまで飛ばされなくてはいけないのか。

 ベローズ副騎士団長の真意を確認すべく、王国議会が開かれる事態となっていた。



 一方、今回の騒動を仕掛けたハンクは焦り始めていた。


「くそっ! 議会にかけるような話題にまで発展させやがって!」


 イライラしながら廊下を歩く彼は今後の対応をどうすべきか、真剣に悩んでいた。そもそも最初の計画では、少し細工をしてジャスティンに横領の罪をかぶせ、この王都から追いだすというまでしかシナリオを用意していなかった。


 入念に下準備を整えてからの実行だったため、ジャスティンはまんまと罠にかかり、読み通りアボット地方送りとなった。ここまでは順調だったのだが、彼にとって最大の誤算はベローズ副騎士団長に目をつけられたことだろう。


 これまでもジャスティンのことを気に入っている素振りを見せていたが、まさか再調査の話を持ちだし、果ては議会まで開催しようとするとは思ってもみなかった。


 同時に、このベローズ副騎士団長の行為はせっかく収まりかけていたハンクの怒りの炎を再燃させる結果となった。


「エリナだけでなく副騎士団長にまで取り入りやがって……こうなったら、ジャスティンの野郎が王都へ戻って来られないよう、さらに評判を落とす策を練らなくては――」

「おい、ハンク」


 突然声をかけられ、驚きながら振り返るハンク。

 視線の先にいたのは屈強な褐色肌の青年であった。


「ゲイリーか……どうした?」


 やってきた青年の名前はゲイリーと言い、ジャスティンやハンクの同期である。ちなみに聖騎士ではなく、一般兵という立場だ。


「どうしたもこうしたもねぇよ。おまえのところの分団は実戦形式の演習をやるんだろ? もう騎士たちは演習場に集まっているぞ」

「な、何?」


 普段であれば絶対にやらない時間確認のミス。

 これもすべてはジャスティンが悪い――もう何をやっても、彼の怒りの矛先はすべてジャスティンへと向けられるようになっていた。


「……大丈夫か? なんだか顔色が悪いようだが」

「なんでもない。時間もないのでこれで失礼するよ」


 そそくさとその場を立ち去るハンクの背中を見つめながら、ゲイリーは首を傾げた。


「どう見ても様子がおかしかったよなぁ……それに、さっき確かにジャスティンって名前を口にしていたような」


 独り言の内容すべてを聞き取れなかったが、少なくともハンクがジャスティンの名前を口にしていたのは確かだった。


 ゲイリーはベローズ副騎士団長と同様にジャスティンの件については懐疑的な意見を持っていた。もしかしたら何かの間違いではないのかと、ここ数日はずっとそんなことばかりを考えている。


 そこへ来て、あのハンクの態度。

 何か引っかかりを覚えたゲイリーは、


「一度ベローズ副騎士団長に相談してみるか……」


 そう思い、副騎士団長の執務室を目指して歩き始めたのだった。

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