鳥取県中部地震

 2016年に鳥取を襲った地震だが、これは皆さんの記憶にはないだろう。


 地震の規模としてはそこそこなのだが、なにしろ、被害が少なすぎる。


 何日かニュースになって、地元以外ではパタッと消えた地震であるからだ。


 震度は最大で6弱、結構揺れたな程度だ。


 いやまあ、これが異常なのであるが。


 なにしろ、震度6弱の揺れが発生しながら、この地震における死者はなんと0。


 日本の耐震技術や地震への意識が向上した結果ではなかろうか。


 鳥取だし、人がいないんだろとか言わないで(涙)


 なお、この時に自分は世にも珍しい経験をさせてもらった。


 それは地震発生当時、あろうことか“震源地の真上”に自分がいた事だ。


 当時は倉吉市関金の『県立農業大学校』にて研修を受けており、農家になるための技術取得に邁進しているところであった。


 畑での作業中だったが、いきなり地面が揺れ始めた。


 そして、僅かに遅れてけたたましい音を響かせるケータイ。


 そう、“緊急地震速報”のアラームだ。


 あろうことが、アラームが発生する前に地震の揺れを感じるという、まず経験できない事象に遭遇したのだ。


 地震速報のメカニズムはこうだ。


 まず、地震の揺れはPrimary wave(第1波・P波)が先に到達する。これは縦方向の揺れであり、割とすぐに到達する。


 次にSecondary wave(第2波・S波)という横揺れの地震が到達する。こちらが全身を揺さぶるような揺れであり、良く揺れるのはこのS波だ。


 先に到着するP波を各所の地震観測所が感知し、即座にアラームを鳴らす。


 次に来るS波はタイムラグがあるため、その僅かな時間に打てる手を打て、というのが地震速報だ。


 数秒と言えども、コンロの火を消す、机の下に潜り込む、そうした行動がとれる。


 それが明暗を分けることもあるのだ。


 だが、鳥取県中部地震の際の自分は、震源地にあまりに近すぎたのだ。


 観測所が地震を計測し、各所にアラームを飛ばす前に、S波が到達した。


 そのために、揺れの後にアラームが鳴り響くという、珍事に出くわした。


 アラーム役に立たねぇなぁ~、などと悪態つきながら、周囲の同期研修生と笑いあったものだ。


 一人の犠牲もなかったからね。


 なお、甚大な被害を受けたのは、“果樹農家”であった。


 鳥取の果樹と言えば“梨”。収穫直前の“梨”が見事に落下し、相当な被害を出してしまった。


 農家を目指して修行中の身であったので、他人事ではない。


 災害一つで成果を台無しにされるのが農業と言うものだ。


 大自然の驚異と戦う事を宿命づけられし職業、それが農家であると言うのを、意外なところから学ぶ結果になった。


 今でも、農家として日夜悪戦苦闘しておりますとも。


 台風、水害、大雪、どれも人の手には余る力だ。


 地震も然り。


 備えていても、その上を行くのが自然と言うやつだ。


 農家をやっていて、それはつくづく思う事だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る