十九話

「トリスタン、時間だ」

 その声で目が覚める。ソファでごろ寝をしていた俺を秘書は起こしに来てくれたらしい。

「ああ、ありがとう。今すぐ出るよ」

 俺はこの街の景色が好きだ。深夜のこの街は、まるで深海のようにキラキラと光っている。

 ただ、深海の底には生物も住めないような無酸素地帯があるのと同様、この街にもおよそ人の住めないような場所が、地下に広がっている。法なんて存在しないその場所は入り組んだ迷路のようになっていて、把握している人間なんて一人もいないんじゃないかと思う。

「……最近、仕事に精が出るな」

「まぁな。人間、現金なもんだよ」

 そこを整備出来れば、暮らすことは出来なくても、会うことくらいは出来るんじゃないか、なんて。

 あいつはまぁ、嫌がるかもしれないけれど。

 ふと、その路地裏を歩いていると、倒れている子供を見つけた。

「……魔法の才能のあるやつだな。恐らく、捨てられたんだろう」

 ここでは捨て子も多い。魔法の才能があればあるほど、周りを苦しめてしまうからだ。

「……魔法の才能を、活かせるようになれればいいんだけどな」

 仕方ない。少し面倒を見てやるか。そう思ったが、少し止まる。

 こんなことをやっていたら、いつソラとの蜜月を過ごせるか分からないな。

 俺は心の中で謝りながら、その子供を抱きかかえた。

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サーカムスタンス 鵙の頭 @NoZooMe

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