十五話

――魔法の才能がある者は、魔子の存在を知ると同時に魔法を扱えるようになる。まるで今まで魔法とともに暮らしてきたかのように、一瞬で。才能に個人差はあるものの、その現象は共通していた。

 まるで魔法がある世界と無い世界が重ね合わさっていて、魔子を認知することがトリガーとなっているように、いきなり魔法を扱えるようになるのだ。

 人類が魔子を発見したその日、その瞬間から、人類にとって魔法は当たり前の存在となり、ずっと昔からそこにあるように、魔法を使える者と使えない者の差が出来た。

 そして、魔法にはある一つの特徴があった。上述の溝はその結果と取れるのだけれど、他に類を見ないその特徴は、魔子の発見当初、研究者たちを大いに混乱させた。

 魔法には、知識の蓄積というものが殆ど存在しなかった。もう少し正確に言うならば、他者間で知識を共有するということが全くできなかった。

 魔法の放ち方、魔子の操り方、魔法からの身の守り方――そういったノウハウを他者に教えても、それが他者に伝わると言う事はなかった。それが何故かは未だに分かっていない。様々な解釈を与える努力は成されているが、それすらも他者と共有が出来ない。とても簡単に言うと、魔法について他人から説明されても、一度もしっくり来ないのだ。魔法を操る技術を高めようと思うと、魔法について知識を深めようと思うと、自分で確かめるしかない。それも、自分の才能の上で。

 そして、魔法の才能というのは遺伝子間で共有されることもない。魔法が扱えるか否かは、受精してから子供が出産されるまでに決まるが、その条件も期間もほぼランダムだ。

 魔子コンピューターの振る舞いの有用性は、完全なランダムを作り出せるからだと主張する人間もいるぐらい、魔法というのはランダムにこだわる。法則性が無いことが法則といってもいいかもしれない。今の所人類は、その結果を眺めるだけに終わっている。いや、魔法の才能が無い人類は、か。

 それならばその結果を存分に利用しようと、各国は魔法の才能がある者を集めて研究機関を作り出す。もちろん、日本もその内の一つだった。アジア型の経済成長なんて言われた日本は、今度こそ遅れを取るまいと、精力的に魔法の研究を行った。

 そしてある日、唐突にそれは起こった。

 研究施設から、魔法研究の筆頭だった嵐という学者と、一人の女性学者が急に姿を消し、二人の赤子が現れたのだ。

 その赤子は性別を異にしていて、そして、嵐と女性学者、二人の遺伝子を対にして持っていた。二人の遺伝子を重ね合わせれば、丁度、嵐と女性学者の子供が持つであろう遺伝子となるような、そんな遺伝子構造をしていた。

 そしてその双子は、既にいるどの人類よりも魔法の才能を持っていた。それは、存在しているだけで魔子の濃度が高すぎて周りの光を屈折させてしまうほどのもので、どのような外的要因も、その二人に接触することはできなかった。

 しかし、幸運なことに、二人は人類に敵対意識を持っているというわけではなかった。とても閉鎖的な施設の中だけで、二人を育てることに成功したのだ。二人は特に外に出たいとも言わず、ずっと二人だけで遊んでいた。ときおり、恋人同士に見える様な振る舞いをすることもあったが、基本的には魔法を使って、日夜面白いことを模索しているようだった。

 そして二人は十四歳の誕生日に、お互いの魔法の優劣を競うことに面白さを見出した。研究施設は二人の決闘場と化し、一夜にして破壊されて男は行方不明となった。

 女はその場に残り、何故かその日から人類に非常に友好的かつ献身的な姿勢を見せることになった。その二人の動向を探るため、対魔課が結成された。

 男の動向を探ることは困難を極めたが、女は魔法技術と科学技術の融合にとても興味を示した。そして各国は、東京を最先端の都市にすべく、日本に援助をすることにした。

――この二人が、決して東京から出ないように。

 東京にずっと、留まるように。

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