十四話

「はいこれ。嵐先輩に渡してきて」

 そう言われてアイ先輩から受け取ったのは、あんぱんとパックのカフェオレだった。

「……これだけでいいんですか」

「いいのいいの。あの人朝抜く人だから」

「いや、朝抜くどころか昨日の晩御飯もまともに与えられて……」

「こっちはあれに忙しいんだから。早く行った行った」

 窓の外、遠くの方に真っ黒な球体が見える。そこには本来、スポーツなどに使われる大きなドームがあった。

 トリスタンは昨晩、そのドーム全体を魔子の膜で覆いその中に立てこもった。その魔子の膜は外部に汚染を引き起こすことこそ確認されていないものの、どれほど魔子に耐性がある者でも侵入を拒んだ。

 内部の魔子濃度は、推定三千ア。その中に入れる人間は恐らく、世界に数人といない。

 そしてその中に入れるだろう対魔課の人間は、現在地下牢に軟禁されている。

「……はぁ」

 私はその人に昼食を渡す係に選ばれたのだった。

 普段、誰も使っていないような廊下を通り、階段を降りて地下牢に辿り着く。なんでここにこんなものがあるのか、私にはまるで分からない。

 電気を点けると、その牢の中には馴染みのある先輩が入れられている。

「お、久しぶりユキ。それが朝ごはん?」

 嵐先輩は、少し疲れている様に見えた。しかし笑顔を崩さず、私の前でいつもの先輩を見せてくる。

「はい。朝御飯です」

 檻の隙間からあんぱんとカフェオレのパックを渡す。

「ラッキー。あ、甘いカフェオレじゃん。これ選んでくれたのアイでしょ?」

 それを受け取ると、彼女は檻の中で嬉しそうに朝ごはんを摂り始めた。私はその姿を見て、そのアンバランスさを見て、少したじろいでしまう。

 私がどうするべきなのか、全く分からなくなってしまいそうで。

 それがとても、怖い。

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