十一話
魔力を全く含んでいない体は、私の足をいとも簡単に貫通させた。私の足と彼の体の間からは当然のように血が滲みだしてきていて、それを治すことも、彼には出来そうになかった。
「…………これで、良かったの?」
私が足を引き抜けば、そのまま彼が死ぬということは、想像に難くなかった。
「はっ……。なんだ、それ。お前がやったんだろ……」
今も高速道路の上を走る軽トラのルーフの上に、彼の血が落ちていく。緑髪を風になびかせながら、彼は何故か自嘲気味に笑っていた。
「……それはあんたが、またビームを撃とうとするから」
「ちげぇよ」
そこで初めて彼は、私の目を見て話しかけた。
「――お前のせいで、対魔課が出来たんだろ」
それは、ゆるぎない事実というやつだった。いや、ゆるぎない事実というより、確定した過去というべきか。
ゆるぎない事実と呼ぶにしては、それはあまりにも私からしたらどうでもいいことで。
「……それは、そうね」
その事実とやらに付随してくるあれやこれやが、私にとっては他人事と同じでしかなく、それでも大切な人と引き裂かれるという感情だけには共感できたのだけれど。
それでも、だからこそ。
私のせいにされても、困ることなのだ。
「だから、俺は死ぬって言いたいの?」
少し不格好ではあるのだけれど、私達は今、たまたま乗り合わせた軽トラの上で戦っていて、その軽トラはずっと高速道路の上を走っているわけで。
何の因果か。運命か。はたまたただの事実なのだけれど。
最初に海棠に指定された廃ビルの前を、軽トラは今まさに通り過ぎようとしていた。
「……それくらいは、言わせてくれ」
彼の体の中に最初から仕込まれていたのだろう。魔法が発動し、彼の体が自動的に吹っ飛ぶ。私の足という栓が抜け、お腹から血を吹き出しながら、高速道路の下、ビル群の作る奈落へと、海棠の体は落ちていった。
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