十話

 その日、俺が食糧を見つけて部屋に帰ると、ユキ以外に見知らぬ人間が二人いた。

「あ、アキ。お帰り」

 そのユキの声は、心配させないように気丈に振る舞っているように聞こえて、俺の胸をざわつかせた。

「ああ、じゃあ私達はこれで」

 見たことも無いようなしっかりとした服を着ている二人はそのまま部屋から出て行った。ユキはその二人を特に見送ることもせず、俺に声をかける。

「……ご飯、どうだった? 見つかった?」

「え? あ、ああ。見つかったよ。ほら」

 彼女から話してこないということは、今の俺は聞かなくていいことなんだろう。そう思い込んで、いつも通りの会話をすることに決めた。

「じゃあ今日は、私が料理する」

「え? ああ、分かった」

 台所に彼女が立って、料理する音を聞きながら、俺は外をぼんやり眺めていた。ここは争いの絶えない危ない場所だけど、まるで時間が無限に感じるかのような昼下がりがある。今日はそんな日だった。

「そういえば」

 ふと、ユキが話しかけてきた。

「んー?」

 それに何となく相槌を打つ。

「サカキちゃんって、いい子だよね」

 その名前は、最近知り合ったご近所さんのものだった。

「んー、そうだな。少し頼りないけどな」

「ああいうちっちゃくて可愛い子って、モテそう」

「そうかぁ? 俺はああいう男ウケ狙ってるみたいな奴は、あんまり……」

 そんな他愛無い会話の後、俺達は一緒にご飯を食べた。彼女が作った料理は、肉じゃが、なんて名前がついているそうだ。料理に名前が付くことを、俺は初めて知った。

 飯を食べ終わって、食器を片付けている間、一度だけ彼女は俺に聞いてきた。

「……聞かないの?」

 それが何を指しているのか、もちろん分かった。

「ん? 何が?」

 どうしてそうしたのかは、俺にも分からない。いや、今思い返せば、多分怖かったんだと思う。初めて見る上の人間と、その二人と話していたユキ。

 何かが無いわけが、無いと思ったから。

 変わらない訳が、無いと思ったから。

 俺は、いつも通りの会話をすることに決めた。

「……上手だね。何でもない、振りするの」

 その言葉で初めて。

 体以外も傷つくことを知った。

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