五話

「ねぇー! ユキ! 聞いてよー!!」

「なんですかー」

 自分のデスクに帰るなり私は先ほどの愚痴をユキに漏らした。

「私がトリスタンの元カノだからってトリスタンの事件の担当にはなれないんだってー! そんなのあんまりじゃなーい!?」

「……妥当な判断しましたね、上層部」

「ひどーい!!」

 ユキは私の方を見ることなくデスクワークを続けている。よくそんなに速く手動くなぁ。うわぁ、両手ともちっちゃくて可愛いなぁ。エンターキー押すの大変そー。

「……多分失礼なこと考えてると思うんですけど。早く自分の仕事に戻ってください」

「うわぁ厳しい。そういう性格も男受けよさそー」

「殺しますよ?」

 めっちゃ蹴られた。今のは私が悪い。

「ごめんごめんって! 戻るから! 自分の仕事に戻るから!」

「はぁ……」

 ユキにこれ以上嫌われたくないのでなくなく自分のパソコンと向き合う。

「……にしてもさー。いるのかね」

「……何がですか?」

「私をいれないほどの魔法の実力者とか、トリスタンに関する情報持ってる人とか」

「いないでしょ」

 彼女は一切画面から目を離さずに即答する。

「だから、今回の件は結局トリスタンに出し抜かれて、結果として嵐先輩が一番苦労すると睨みますね」

 彼女はそう言うと少し微笑んだ。

 どこで笑ってんだよ性格わりぃ。でも笑った顔ほんと可愛いなこいつ。

「はぁ? そんなのだけはまじ勘弁だよ。私を入れないんだからせめて私抜きで完結させて欲しい……」

 そう言いながら画面をパソコンに戻すと、ディスプレイに開いた覚えのないウィンドウがポップアップした。

『明日の夜、この場所に来い』

 その文章とともに住所が添付されてある。

「………………」

 早速署のメインシステムからハッキングされてんじゃねーか。ふざけんな。どうやってハッキングしてきたのか探ろうにも痕跡は既にどこにもない。こいつ、中々のやり手か。

 十中八九トリスタン関連だろうが……。どうしようか。私を信用せずに計画を進めた上層部のツケを私が払っていることになるのだけれど。このことを報告するか否か。これを報告してまたこっちに任せろなんて言われたら嫌だなぁ、なんて思いつつ……。

「報連相は社会人の基本だしなぁ……」

 私はこのことを、署長に話すことにした。

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