108話 魔女ベルネラ


 カズヤは、魔導人形義務ん攻撃を受け続けた。


 捕らえられていた人間からすると、魔導人形に理不尽に支配されてきたと思っていた。


 しかし、彼らの目からは違って見えている。


 魔導人形たちは人間を恐れていたので、人間を捕らえて支配していたのだ。そして、少しでも仲間を増やして対抗するために土魔法使いを捕らえている。


 理屈だけでは、人間が魔導人形を批判する資格はなかった。




「今ならお前の言いたいことも分かる。ただ、一方的に支配されるのも困るんだよ」


「ふざけるな! それはお前たち人間の勝手な理屈だろう!」


「そうだ、俺たちの勝手な理屈だ。でも、人間を捕らえるのも、お前たち魔導人形の勝手な理屈だろう? こんな風に相手を支配しようとしている点では、人間も魔導人形も大差がないんだよ」


 そう言うとカズヤはギムを捕まえてしまう。そして、人間用の独房に閉じ込めた。



「こんな戦いの最中では話し合いもできない。戦いが落ち着いたらゆっくり話し合おう。それまではここに入っていてくれ」


「くそ、偉そうなことを言いやがって。いいか、レンダーシア公国はすでに俺たち魔導人形が支配している。あの国の人間どもは俺たちのコントロール下にあるんだ。せいぜい人間同士で殺し合うがいい。お前たちが魔導人形同士で戦いを強いるようにな」


 ギムの捨て台詞を聞きながら、カズヤは残りの仲間たちを探しに行った。




 ギムがいた部屋の奥には多くの人間たちが囚われていた。しかし、一番お世話になったリナの姿がまだ見えない。


 後ろから駆けつけてきたアリシアたちと合流した。


「赤毛の年配の女性を見なかったか? リナというんだが……」


「いいえ、そのような人は見なかったわ。そんなに重要人物なら、もっと奥に囚われているんじゃないかしら」



「ステラ、ボットたちの情報はどうだ?」


「すでに、ほとんど全ての人を助けました。しかし、ここの更に奥の広場には魔法障壁が張られていて、まだ中を見ることができません」


「そこが怪しいな。みんなで行ってみよう」


 カズヤたちは更に奥へと進み、ついにスクエアの最深部の広場へと続く扉までたどり着いた。



「ちょっと待って! そこの扉から恐ろしい魔力を感じるわ。触らずに破壊した方が良さそうよ」


 アリシアが、慌ててカズヤの背中を掴む。扉に手をかけようとしたカズヤは手を止めた。


「こんな扉、俺様が壊してやるよ。みんな離れてろよ!」


 得意の槍に雷の魔力を込めると、バルザードは一撃で扉を破壊した。すると、扉に込められた魔力が爆発する。



「やっぱりその程度の罠ではバレてしまうのね。さすがはアリシア様」


 破壊された扉の向こうから、明らかに普通ではない雰囲気をまとった女性が現れた。


 ピンク色のけばけばしい色の髪の毛が無造作に飛びはねている。


 黒いローブをまとっているので魔法使いだと思うが見た目は若そうだ。もちろん、魔法によって外見が操作されている可能性もある。


 なにより、カズヤたち4人の戦力を見ても恐れる様子がなかった。



「ベルネラ! なぜあなたがここにいるの?」


「魔術ギルドに命令されたのよ。腹立たしかったけど、こんなに楽しいイベントがあるなら話は別ね」


「アリシア、あいつは誰なんだ? 友だちとは思えないけど」


「あの人はベルネラよ。魔術ギルドのSランク魔法使い。恐ろしい魔法を使うから気を付けて」


「Sランクだって!?」


 Sランクの魔法使いを相手にするのは、カズヤにとって初めてだった。



「ベルネラの名前なら俺様も聞いたことがあるぜ。魔女というあだ名の凄腕魔法使いだ。あらゆる属性の魔法を使いこなすだけじゃなくて、あいつは……」


「獣人さん、私の紹介をありがとう。ただ、死んでいく人に褒められても嬉しくないわ。私の魔法は身体で思い知った方が気持ちいいのよ?」


「おい、リナはどこにいるんだ!」


 こらえきれなくなったカズヤが、ベルネラの話をさえぎる。



「リナ? ああ、アデリーナのことね。あなたたちの一番の目的が彼女だと分かっていたから、後ろの一番奥の部屋に閉じ込めておいたわ。私を倒せるなら会えるかもね。倒せるならね」


 うふふっと、ベルネラが小馬鹿にしたように笑う。


「なぜ、俺たちの狙いがリナだと知っている!?」


「だって、そこにお姫様がいるじゃない。魔術ギルドに反抗的で有名なアリシア様が」


 ベルネラがにやりと笑う。



 なぜアリシアがいることと、リナが繋がるのだ。


 しかし、ベルネラの言葉を聞いたアリシアの表情が一変する。


 血相を変えてベルネラに詰め寄った。


「ベルネラ、あなた今なんて言ったの!? もう一度名前を言いなさい!!」


「あら、知っててここに来たんじゃないの? あなたの母親がいるってことを……」



 カズヤはそれを耳にした瞬間、雷に撃たれたように硬直した。

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