107話 魔導人形ギム
「お、お前は、ひょっとしてカズヤか……!?」
久しぶりにカズヤの姿を見た仲間たちは、光が差したような顔を向ける。
「ああ、記憶を失っていたせいで、助けに来るのが遅くなってしまった。すまない」
「いや、いいんだ。いま助けに来てくれたんだろ?」
男たちの顔に笑顔が戻った。
「俺たちがいた時とは、建物の形状が大きく変わっているんだが?」
「お前たちが脱走してから警備が大幅に変更されたんだ。人間たちが一度に集められることがなくなって、個室に閉じ込められてしまって行き来できなくなったんだ」
考えてみれば当然のことだ。
カズヤたちの脱走があってから、さらに監視が強くなってしまったのだ。
「そうか、俺たちのせいですまないな。皆をなかなか発見できないんだが、どこにいるか知っているか?」
「それが、今日の朝の作業中に、急に集められて部屋に閉じ込められたんだ。お前たちが来るのが分かっていたのかもしれないぞ」
ということは、今日の朝方に情報が伝わったということか。
もしカズヤたちが予定通り徒歩で進んでいれば、今日たどり着くことはない。ウィーバーに乗り込んだのを見つけて、通信用の魔石で連絡でもしたのだろうか。
しかし、これは悪い情報ばかりではない。
今日の朝知ったということは、相手にはついさっき伝わったようなものだ。急遽予定を変えたおかげで、警備が手薄のうちに侵入できたともいえる。
「スクエアの外にムルダが待っているはずだ。正門までの魔導人形は破壊してきたから、気を付けて脱出してくれ」
「ムルダも生きていたのか!?」
「ああ、あいつのおかげで記憶が戻ったんだ。ピーナもいるんだぜ」
知っている仲間の名前を聞いて、囚われていた人間たちの顔が明るくなっていく。
「……そうだ。リナがどこにいるか知っているか?」
逃げ出す仲間の最後の一人に、カズヤが尋ねた。
「いや、分からない。最近はお互いの姿を見ることもなくなったんだ」
やはり、全ての部屋をしらみつぶしに探していくしかなさそうだ。
カズヤが扉を破壊しながら進んでいくと、子どもたちの楽しそうな声が聞こえてくる部屋があった。
「ん、この声は……」
カズヤが扉を壊して中に入ると、思った通りピーナが10人ほどの子どもたちと一緒に遊んでいた。
「あ、カズ兄! 以前は誰もいなかったのに、今はこんなに子どもがいるんだよ!」
その部屋には、ピーナと同じくらいの10歳未満の子どもたちばかりが閉じ込められていた。
以前いたときには、こんなにたくさんの子どもはいなかったはずだ。
同年代の子どもがこれだけいれば、ピーナも友だち不足で困ることはなかったのに。
「それで、リナは見つかったのか?」
「あっ、忘れてた! これから探すね」
あれだけリナに会いたいと言っていたのに、遊んでいるうちに忘れてしまっている。
「みんな、この先に悪い魔導人形はいないから安心して大丈夫だよ。他の大人たちに出会ったら助けてもらうといい」
カズヤは、閉じ込められていた子どもたちをスクエアの外へ誘導した。
「ピーナ、リナおばさんを探すぞ」
「りょうかいしましたあ!」
ピーナは元気よく返事すると、姿を消しながら更に奥へと進んでいった。
その後、カズヤは少しずつ仲間に出会うことができた。
出会った順に奴隷たちを解放しながら、さらに建物の奥へと進んでいく。
そして、かつて魔導人形の幹部たちがいた部屋にたどり着くと、そこに見慣れた顔の魔導人形が現れた。
そいつはカズヤたちを直接支配していたので、はっきりと顔を覚えている。
スクエアを支配している魔導人形のトップで、自我と知性を持って周りに指示を出していた奴だ。
「ギムか。お前には散々世話になったな」
「貴様はカズヤだな。川に落ちて死んだと思っていたが、本当に生きていたとはな。この騒ぎはお前のしわざか?」
人間とは違う、抑揚のない声が聞こえてくる。
魔導人形の発声の仕方は変わっていた。喉に埋め込まれた魔石を通して言葉を発する仕組みになっている。
「囚われている人間たちを解放する! 邪魔をするならお前も破壊するぞ」
「随分と偉くなったな。貴様たち人間も俺たち魔導人形に同じことをしているだろう。人間は俺たちを道具のように戦争で戦わせるために造ったのだ。人間を管理しなければ、逆に俺たちが戦場に送られるんだよ」
正論を唱えるギムに、カズヤは反論できなかった。
確かにギムの言う通りだった。
捕らえられていた人間からすると、魔導人形に理不尽に支配されてきたと思っていたが、彼らの目からは違って見えている。
魔導人形たちは人間を恐れていたので、人間を捕らえて支配していたのだ。そして、少しでも仲間を増やして対抗するために土魔法使いを捕らえている。
理屈だけでは、人間が魔導人形を批判する資格はなかった。
ギムがカズヤに襲い掛かってくる。
しかし、カズヤは攻撃をかわさない。頭や身体に攻撃を受け続けたのだった。
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