103話 アビスネビュラの情報


「それよりも、ゼーベマン。アビスネビュラについて知ってることを教えてくれよ」


 カズヤは、何気ない口調でゼーベマンに尋ねた。



「そんなこと聞かれて答えるはずがないじゃろう! それに、小僧なんかに教えるつもりはないのじゃ!」


 この機会に少しでもアビスネビュラの情報を手に入れておきたかったのだが、ピーナにイタズラされて、へそを曲げたゼーベマンは答えてくれようとしない。



「マスター、アビスネビュラには階級があるようですよ。そこのお爺さんは第6階級だそうです」


 話を聞いていたステラが口をはさんでくる。


「なんじゃと。お主、なんで知っておるのじゃ!?」


「私が黒耀の翼にいる時に、得意げに教えてくれじゃないですか」



「そうじゃった……。お主が仲間になったと思って、浮かれて教えてしまったのじゃ……」


 前回の戦いの最中に、ステラは勧誘されて一時的に黒耀の翼に入っていたことがあった。


 機密情報をまんまと話すとは、予想通り間抜けな爺さんだ。



「そうなるとシデンは何階級なんだ?」


 カズヤは話の流れでシデンに振ってみる。


「俺は第4階級だ」


 少し前を飛んでいるシデンが素直に教えてくれる。どうやら隠す気はないらしい。



「そうなると第1階級の奴が一番偉いんだな。ゼーベマン、アビスネビュラのトップは誰なんだ?」


「何でお前に教えなきゃいけないのじゃ!」


「トップはどこかの国の王様なのか? でも、そうするとシデンの第4階級というのが低すぎるか。ゼーベマンの第6階級というのはどれくらい偉いんだ」


「失礼なことを言うな。アビスネビュラに入ること自体が凄いのじゃ。第6階級とは言っても、選ばれた者しか入れんのじゃ」



 たしかに、この爺さんはタシュバーン皇国では伯爵だったはずだ。


 シデンと同じパーティーにいることも評価されているのかもしれない。


「そもそも、第6階級の人間がトップの人間を知っているのか? この手の組織が上下に風通しがいいとは思えないんだが」


「ぐぬぬぬぬ……」


 ゼーベマンが分かりやすいように黙りこくってしまう。


 やはり知らないのだろう。ある程度の階級にならない限り会うことはできない、とかはありそうだ。



「シデンは知っているのか?」


「知らん。興味もない」


「行動を命令されたりするのか?」


「ときどき指示を伝えに来る奴がいるが、興味がない限り相手はしない。まあ、今の俺は皇太子にすぎんからな。国のことを左右できる訳ではない。今のうちに囲い込みだけして放置しているんだろう」


 シデンは包み隠さずに教えてくれる。



「アビスネビュラの目的は何なんだ?」


「知らん。その手の話は爺の方が詳しいだろう」


「若~、無茶ぶりせんでください~」


 話を振られたゼーベマンが泣き言をいう。


 カズヤが再度尋ねると、渋々といった顔で答えてくれた。



「アビスネビュラがあるのは、この世界を支配するためなのじゃ」


「もう十分支配しているだろう?」


「より強固に支配するためじゃ。お主らエルトベルクの反抗を見て、さらに考えを固めたらしいぞ」


 ゼーベマンがいやらしく笑う。


 カズヤは自分たちが原因になってしまったことに気まずさを感じた。



「カズヤ、こんなことに責任なんか感じては駄目よ。そもそも国を上から支配しようとしているのが間違ってるんだから」


 アリシアがフォローしてくれる。


「それにしても、どうやって、より強固に支配するんだよ?」


「その為に色々な命令が飛んでくるのじゃろう。指示されたもの以外は、儂に聞いても分からんわい」


 ゼーベマンはそっぽ向いてしまった。


 これ以上聞いても何も出てこなそうだった。




 今日の目的地である国境沿いの街が見えてきた。


 ここで一泊して、明日には国境を越えてレンダーシア公国に入る予定だ。


 ここはまだタシュバーン皇国なので、シデンがいれば問題ない。



 レンダーシア公国に入ったら目立つので、旅の途中で他の街に立ち寄るのはやめておく。


 ウィーバーに乗るのも目立つので、街道を歩いて進んでいく。黒耀の翼もここで馬を手放していく予定だった。




 カズヤたちが街の城門に近付くと、案の定、黒耀の翼に気が付いた兵士たちが直立不動になる。


 シデンたちに頭を下げると、ギルドカードすら確認せずに全員街の中に入れた。


 それに続いて、カズヤたちが城門をくぐる。


 これではどちらが雇い主か分からない。



「この街で俺たちが泊まる宿は決まっている。お前たちも適当に選ぶといい」


 そう言い残すと、シデンたちは街の喧騒のなかに紛れていった。


「ステラ、いい宿屋は分かるか?」


 通常、ザイノイドにとって睡眠は必要ない。


 しかし、人間の時の生活リズムが強く残っているカズヤは、心を休めるために少しだけでも眠っておいた方がいい。


 それに、いくら眠らないからといっても、カズヤとステラが一晩中、宿の外で待っているのもおかしな話だ。



「すでにこの街はボットで下見してあります。道なりに進んだ左手に小綺麗な宿屋があるので、そこにしましょう。かわいい猫ちゃんがいるのでお勧めです」


 猫の存在で宿屋を決めた気がするが、そこには触れないでおこう。


 ステラに言われた通り進むと、たしかにこじんまりとした居心地の良さそうな宿屋があった。



「部屋はどういう組み合わせにするんだ?」


 受付で空室を確認すると、カズヤが念のために確認した。

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