101話 パーティーの名前

 

 最後にカズヤには、どうしても力を借りたい男がいた。



「シデン、黒耀の翼としても、この事件を解決してみないか?」


「興味深い話だが、俺たち黒耀の翼がただで動く訳にはいかないな。お前らが依頼主にでもなれば話は別だが」


 黒耀の翼に対して、冒険者として依頼を出せということか。



「いくら払えばいい?」


「1日500万Eエルツだ。人間たちの解放に成功したら、更に成功報酬をもらう」


 シデンがにやりと笑った。



 こいつはこういう男なのだ。


 気位が高く冷酷な雰囲気を出しながら、


 1日500万という金額はとてつもなく大きいが、通貨をエルトベルクが流通させているEエルツにしてくれた。



 Eエルツはアビスネビュラのせいで、タシュバーン皇国の一部の都市を除いて、他国との取り引きでは使えない。国内でも余っている通貨だ。


 Sランク冒険者パーティーの黒耀の翼を、1日500万Eエルツで雇えるなら十分安いのだ。



 カズヤはアリシアの方を確認する。アリシアは肯定するように深くうなずいた。


「分かった、出そう」



「出発はいつだ?」


「明後日にしよう。セドナの旧市街へ来てくれ」


「分かった、それまでに準備しておこう」



 これで奴隷として囚われている仲間を助けに行く陣容は整った。


 記憶が無かったとはいえ、仲間たちを何か月も放置していたことに、カズヤは申し訳なさが募った。



 1日でも早く助け出したい。


 カズヤたちはセドナに戻って、急いで準備を進めるのだった。





 セドナに戻ると、アリシアから意外な提案があった。


「冒険者として出かけるなら、パーティーとして名前を付けた方がいいと思うんだけど」



 確かに冒険者がグループになって行動するなら、パーティーになっていた方が違和感は無い。


 メンバーになるのは、カズヤとステラ、アリシアといったところか。


 バルザードは冒険者ランクを剥奪されているので入れないのだろう。



「いいね。どんな名前にしようか?」


「カズヤなら、どんな名前がいいと思う?」


 質問に質問で返されてしまった。


 アリシアのことだから名前を考えついていそうだが。



「うーん……、いいのが思いつかないな。ステラなら何て付ける?」


 カズヤもいいのが思いつかずに、たらい回しのように質問を振っていく。



「そうですね……。"センチュリオン"なんて、どうですか?」


「かっこいいけど、この世界には少し似つかわしくない気がするなあ」



 地球の戦車の名前にもセンチュリオンという名前があった。


 ステラがどうやってこの名前を思いついたのかは知らないが、ここの魔法世界には少し合っていない気がする。



「実は私もいいのを思いついているの。"翡翠の幻想戦乙女団"なんてどうかしら?」


 アリシアがドヤ顔でこちらを見る。


 あまりのセンスの無さに、カズヤは黙り込む。カズヤがいるのに戦乙女は無いだろう。しかも長い。



 みんなが黙りこくったところに、バルザードが口を開いた。


「姫さんの特徴から、"真紅の覇杖しんくのはじょう"なんてどうだ」


「……お、カッコいいな!」



 真紅はアリシアの髪や目の色、覇は王族、杖は魔法使いをイメージしているのだろう。


 皆を見回すが、特に異論がある人はいなそうだ。



「じゃあ、真紅の覇杖しんくのはじょうにしよう」


「ピーナも、"ちんくのはどう"に入りたい!」



「え、ピーナも!? 大丈夫かなあ……」


 ピーナの実力はよく分かっているが、なんとなくカズヤは心配になった。



「今回はいいんじゃない。メンバーの変更はいつでも出来るし、国境を越えるときの理由にもなるし」


 今回は収容所の解放が目的だからピーナにも関係がある。


 戦力としてもピーナがいてくれるメリットは大きい。



「アリシアがそう言うなら、入れてもいいかな」


 ステラからも反対は無かったので、ピーナを真紅の覇杖しんくのはじょうに入れることになる。


 出発前までに、バルザードが、セドナの冒険者ギルドで登録を済ませてくれるみたいだった。



「それじゃあ改めてよろしくね、ピーナちゃん。私はアリシアよ」


「アーちゃん、よろしくね!」


 改めてアリシアが挨拶をしてくれる。



「知ってると思うが、彼女がステラだ」


 今度はカズヤがステラを紹介する。


「よろしく、スーちゃん! それで、どっちがカズ兄のお嫁さんなの!?」


 ピーナからとんでもない攻撃が飛んできた。



 アリシアとステラからギラついた視線を感じる。答えを間違えると命に関わりそうだ。


「おいおい、ピーちゃん。こんな綺麗な人たちがカズヤのお嫁さんな訳ないだろう。お情けで一緒にいてくれるんだよ」


 雲助も余計な推測を付け足してくる。



「……そ、そうだな。二人は大切な仲間だから、お嫁さんとかではないんだよ」


「カズ兄は、お嫁さん作らないの?」


「まあ、そんな年齢じゃないしな……」



「いつかはお嫁さん欲しいって、いつも言ってたじゃない。変なのお!」


 アリシアとステラは笑っていた。


 どうやら、生きて乗り越えられたようだ。出発前にカズヤの体力が全部無くなりそうだった。




 いよいよ出発当日。


 黒耀の翼が馬に乗ってセドナにやってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る