100話 ピーナの才能
アリシアは、小さな女の子が戦場に出ることを心配していた。しかし、ピーナに限ってはその心配は必要ない。
「いや、大丈夫だぞ。むしろピーナがいてくれた方が助かる場面が多いと思う。脱走だって、ピーナがいなかったら不可能だったんだからな」
「えっ? そこの雲助ちゃんって子のおかげかしら。たしかに空を飛べるのはありがたいけど……」
カズヤの言葉を聞いても、アリシアはまだ心配している。
たしかに、ただの小さな女の子なら戦場に連れて行くわけにはいかない。しかし、ピーナは特別なのだ。
「みんな、ピーちゃんの力を甘く見ているようだな」
雲助も、ピーナへの信頼は揺るがない。
「そうなんだよ。ピーナの魔法はそんなものじゃないんだ。ピーナ、まだあの魔法は使えるのか?」
「もちろん、いつでも大丈夫だよ!」
「よし、それなら、ここのお姉さんたちを驚かせてやろうか」
「ふふふっ、分かったよ!」
ピーナが元気な声で答える。
そして、目をつぶって何やら呪文を詠唱し始める。
すると、ピーナの姿がだんだんと薄くなってきた。
後ろにある部屋の壁や机が、ピーナ越しに透けて見えてくる。
「ちよっと、どういうこと!? まるで幽霊のように姿が半透明になったわ」
この世界にも幽霊という存在があることの方にカズヤは驚いた。
しかし、アリシアはそれ以上に驚いている。
ステラが半透明のピーナに触ろうと手を伸ばすが、スルリと通り抜けてしまう。
「熱探知や電磁波スペクトル上では、彼女は確かにそこに存在しています。しかし、視覚的に見えないだけでなく、物質的にもさわれないなんて……」
ステラが驚くのはかなり珍しい。
「こんなもんじゃないぞ。ピーナ、完全に姿を消してやれ」
カズヤの言葉を聞いてピーナはニコリと笑う。
ピーナの姿は更に薄くなり、完全に透明になってしまった。
「光学的に姿が見えないように偽装することは可能です。しかし、物理的にも姿を消す方法は、私にも分かりません……」
ステラの戸惑いが伝わってくる。
「ステラにも分からないことがあるんだな」
「基本的に私たちザイノイドは、物質や物質の運動など、実在するものを観察するところから考えます。しかし、この世界の魔法は、目に見えない心象や想像力から炎などの物質を具現化していきます。出発点が真逆なので理解するのが難しいのです。最後には同じところにたどり着くとは思うのですが……」
ステラなりに、何とか魔法を理解しようとしているようだ。
「それに気付いたかい? ピーナだけでなく着ている服や雲助の姿も見えないだろう。小さな物しか出来ないんだけど、ピーナが触れている物も一緒に消えるんだよ」
「ちょっと信じられないような魔法ね。これは、どのくらいの時間消えていられるの?」
「半日は余裕じゃないかな。ピーナと隠れんぼをすると、絶対に見つけられないんだ。魔導人形の奴らが、何度もピーナに手錠や足枷を付けようとするんだけど効果ないし。脱走するときには壁を通り抜けて、裏から扉の鍵を開けてくれたんだよ」
もちろん敵の攻撃を受けることだってない。ピーナはまさに無敵の状態なのだ。
カズヤはまるで自分の手柄のように得意気に話す。
「実は、今ピーナが何処にいるのか俺にも分からないんだ。そろそろ出てきなよ」
「わあっ!!!!」
「ぎゃあ!!」
悲鳴をあげたのはカズヤだった。
ピーナはカズヤの背後に立っていたのだ。
「お、驚いたあ……。お姉さんたちを驚かせようと言ったじゃないか、俺を驚かせてどうするんだよ」
ピーナはカズヤを驚かせることができて、楽しそうにニカニカ笑っている。
自慢げに話していたカズヤも体裁が悪い。
「それにしても、こんな魔法は聞いたこともないわ……」
「儂だって聞いたことないわい。ピーナちゃんといったね、タシュバーン皇国に来ないかね? 国賓として大歓迎じゃよ」
あいかわらずゼーベマンが勧誘しているが、国賓の意味すら分からないピーナは、キョトンとしている。
それに、すでに誰もゼーベマンの相手をしていない。
皆の目は黒妖精族のリオラに向けられていた。
ステラが黒耀の翼にいたときに聞いた話だが、このなかで一番年上なのがリオラなのだ。
黒妖精族の寿命は500年以上あり、リオラもすでに200歳を越えている。
見た目は明らかにゼーベマンが年上なのだが、美しくて妖艶なリオラが最年長だとは、カズヤは説明されてもしばらくは信じられなかった。
「……私もこのような魔法は聞いたことがありません。でも、エルフ族の子どもは幼少期に特別な魔法を使えることもあると聞いたことがあります。ただ、大人になるにつれて消えていくとか。ひょっとしたら、子どものうちだけの特別な能力かもしれません」
なるほど、ピーナが子どもの頃だけに使える魔法で、大人になる頃には消えてしまうのか。
その説明は納得できた。
なぜならピーナの能力は無敵過ぎるのだ。このまま大人になっても使い続けられるとしたら、世界征服だって可能だろう。
「ピーナちゃんがこんな魔法を使えるなら問題ないわね。それじゃあ、一緒に行きましょう」
ピーナの能力も見て、アリシアも納得してくれたようだ。
そして最後に、カズヤにはどうしても力を借りたい男がいた。
カズヤはその男の方に振り向いた。
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