099話 スクエア救出作戦


「もし、各国で保有している魔導人形が自我を持って暴走すれば、大きな被害が出るわ」


 アリシアが一番懸念していたことを口にした。



 奴隷時代の記憶を頼りにカズヤが補足する。


「スクエア内にいる、全ての魔導人形が自我を持っている訳じゃないんだ。ただの魔導人形たちも自我を持った魔導人形が近くにいると、自我を持ちやすい傾向があるみたいなんだ」


「……なるほど、面白い話だな。わが国でも魔導人形による暴走事件がいくつか起きている。あながち出鱈目とも思えん」


 黙って聞いていたシデンが口をはさんだ。


 タシュバーン皇国でも魔導人形の暴走事件が起きていたのは初耳だった。



「レンダーシア公国のスクエアと呼ばれる収容所については分かったわ。それより、カズヤに何があったのか教えて」


 さっきはゼーベマンに急かされたので、魔導人形とスクエアの話を中心に伝えてしまった。


 たしかに、カズヤ自身のことはほとんど伝えていない。


 カズヤは、この世界に来てからの自分自身のことを、アリシアたちに話し始めた。




「……なるほどね、だから出会った時から話が通じたのね。そんな短期間で言葉を覚えたなんて凄いわ」


「マスターは服装に頓着しないので、ボロボロの服が自前だと思ってました。奴隷だったと言われれば納得できます」


 あいかわらず好意的に捉えてくれるアリシアと、ひどいことを言うステラ。


 この世界でこんなに気やすい関係が築けるなんて、スクエアにいた頃のカズヤは想像もしていなかった。



「カズヤは囚われている仲間を助けに行くんでしょ。そのレンダーシア公国のスクエアという場所に私も行っていいかしら?」


 誰に何と言われようと、カズヤはスクエアに囚われた仲間たちを助けに行くつもりだった。


 しかし、アリシアたちにお願いするかは決めていない。


 スクエアの現在の様子は分からないが、レンダーシア公国と戦争をしたい訳ではない。スクエア内に囚われている仲間を助けたいだけだ。


 だから、エルトベルクの軍隊を使っておおっぴらに助けに行く訳にはいかないのだ。



「でもアリシア、今回はエルトベルクの王女としての立場では行動できないよ」


「ええ、もちろんそのことは分かっているわ。今回は冒険者のアリシアとして行動するつもり。だって、魔導人形が自我を持って人間に反逆するなんて、かなりの大ごとだと思うの。


 魔導人形は多くの国で兵士や作業員として利用されているし、もし彼らに反逆されたら恐ろしいことになってしまう。もちろんエルトベルクにも魔導人形はたくさんいるし、放置できる話ではないでしょ」



 確かに、ゴンドアナ王国との戦いでも魔導人形の力を借りている。


 エストラからセドナへの移住にも荷物運びとして利用している。


 彼らがいっせいに反旗を翻したことを想像すると恐ろしい。カズヤの脳裏に、奴隷として過ごしていた時の苦い記憶がよみがえった。


「セドナを空にしても大丈夫なのかな?」


 カズヤは確認するようにステラを見た。



「ゴンドアナ軍やメドリカ軍を壊滅させているので、すぐに襲ってきそうな周辺国はありません。エルトベルク国内でも、大きな動きはしばらく無さそうです」


 問題はなさそうだ。


 不穏な動きがあったら、すぐにステラに教えてもらえばいい。


 セドナの新市街の建築や、エストラの往復はボットたちに任せておけばいい。


 移住者の受け入れは指示をして、非常時の連絡さえしてもらえれば、カズヤたちがいなくても何とかなるかもしれない。



「分かった、アリシアが助けてくれるなら有難いよ。ということは、バルも来てくれるんだな?」


「もちろんだぜ。そんな危険な場所に、姫さん一人で行かせる訳にはいかねえ」


 カズヤにとっても、アリシアとバルザードの協力が得られることは大きかった。


「ムルダも一緒に来てくれるんだろ?」


「ああ、もちろんだ。戦闘では役に立てないと思うが、俺だって皆を助けたい。出来ることがあれば何でも手伝うぜ」



「でも、スクエアの正確な場所が分からないな……。ステラ、レンダーシア公国のどの辺りにあるか分かるか?」


「マスターの話を聞いてから、人工衛星を使ってレンダーシア公国内をずっと探しています。四角い怪しげな建物は見つけたのですが、魔法障壁があって詳しく見ることができません」


 スクエアのトップは魔導人形のギムだったが、更にその上にいたのは人間の魔法使いだった。


 カズヤの記憶を消したあいつなら、建物全体に魔法をかけることくらい可能な気がする。



「もちろん、ピーナも行くからね! 絶対リナおばさんを助けるんだから!」


「ピーちゃんが行くなら、もちろんオイラも行くぜ」


 元気な声でピーナが手を上げる。


 ピーナは収容所で、ずっとリナおばさんの世話になっていた。脱出時にはリナを助けに行くと約束しているのだ。


 そして、ピーナが行くなら雲助も付いてくる。



「……でも、ピーナちゃんの気持ちは分かるけど大丈夫かしら。戦闘になったときに守り切れる保証は無いのよ」


 小さな女の子が戦場に出ることを、アリシアは心配しているのだ。



 しかし、ピーナに限ってはその心配は必要ない。ピーナには、誰も持っていない特別な才能があるのだ。

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