078話 戦闘:2対4000
「ちょっと、二人は何の話をしているの!?」
アリシアが思わず口をはさんだ。
「宇宙から衛星で攻撃するんだよ」
以前にステラが情報収集のために打ち上げていた衛星は、単発ではあるが攻撃もできる。
衛星からの攻撃は、威力を落として攻撃範囲を広げたり、攻撃範囲を狭めて威力をあげることもできる。
今回は、ピンポイントに指揮官を狙いたい。
バグボットや衛星による詳細な情報が、それを可能にしているのだ。
「マスター、準備ができました。いつでも発射できます」
「よし、時間を稼ぐために、すぐに攻撃してしまおう。着弾点がやつらの居場所だな」
カズヤはそう言って城壁の上に登ると、ゴンドアナ軍が攻めてきている北の方を見つめた。
「……発射します」
ステラがつぶやいたかと思うと、一筋の光が宙から地面へと落ちてきた。それは美しい光の帯だった。
そして、光が地面に接すると同時に、大地を震わせる衝撃となって伝わってきた。
「……敵の中央軍の司令部を攻撃できました。指揮官の他、600人ほどの兵士に直撃したはずです。ゴンドアナ軍は大混乱に陥っていますので、しばらく時間がかせげるでしょう」
ステラが冷静な口調で報告を終える。
指揮官を狙うコントールを重視したので、兵士への被害はそれほど多くはない。
しかし、狙い通り司令部を攻撃することができた。
「これで撤退してくれるのが一番いいんだが、そううまくもいかないだろうな。この隙に街道上に城壁を作ってしまおう。急いで人夫たちにお願いして、建設用ボットを移動させるんだ」
カズヤの指示で、新市街を作っていたボットたちが急遽、セドナ北部の街道に集められる。
人夫と兵士を使って、急ごしらえの城壁を作りはじめた。
ボットと人夫たちへの指示を終えると、カズヤは頭を切り替えた。
次は西のメドリカ王国に対する対策だ。
メドリカ王国は首都であるエストラに近く、カズヤたちがいるセドナからは反対側なのでかなり遠い。
エストラには市民もまだ沢山住んでいるし国王もいる。ここからでは、進軍中のメドリカ軍に対応するのに時間がかかり過ぎてしまう。
「今のエストラはどうなってるんだ?」
「お父様と街の警備のために、最小限の500人くらいの兵しか残っていないわ。4000人を防ぐのはとても無理ね」
父親のこととはいえ、アリシアは冷静に現状を把握している。
「ステラ、どうしたらいいと思う?」
「そもそも、迎撃したくても時間的に間に合うのは、ウィーバーに乗るか
「他に間に合うものはないか?」
「ウィーバーやF.A.に乗せれば、ボグボットも運べます。何に使えるか分かりませんが」
カズヤは少し考えると、ステラに小声で相談する。
「……こんな方法は可能なのか?」
「なるほど、意外な方法ですね。ザイノイド相手には効果が無いので検討していませんでした。しかし、人間相手には効果的です。マスターは時々賢くなりますね」
若干トゲがあるが、珍しく褒められたので良しとしよう。
「ただ、攻撃する場所が難しいな。近くに集落があったら避難させなければいけないし、メドリカ軍を説得する作業も必要だ」
頭を抱えるカズヤに、アリシアの方から話しかける。
「二人の話は聞こえていたわよ。その役目は私にしか出来ないでしょう? ウィーバーを貸してくれれば、エストラが襲撃される前にメドリカ軍を止めてみせるわ」
確かにこの作戦はアリシアが適任だ。
しかし、王女であるアリシアを単身で最前線に向かわせることになる。
「国が滅びてしまったら王女も王様も無いでしょう? 可能性があるなら、すぐに動かないと」
「姫さんが行くなら俺様も行くしかねえな。ウィーバーは嫌いだけど、泣き言を言ってる場合じゃない。姫さん、2人で4000人の兵士を撃退してやろうぜ!」
「ふふふ、私たちだけじゃなくて、
覚悟を決めたアリシアには余裕すら感じられる。
「
ステラが幾つかの小さな塊をアリシアに渡す。
「もし何かあったら、これを使って連絡してくれ。貴重な魔導具らしいからな」
カズヤが手渡したのは、かつてエストラの地下で工作員が使っていた連絡用の通信装置だった。
カズヤたちはウィーバーに乗り込んだアリシアとバルザードに声をかける。
「危なくなったら逃げてもいい。任せたよ」
「役目を果たしたら、ちゃんと褒めて頂戴ね。バルくんと二人だけで4000人の敵陣に乗り込むんだから」
カズヤは無言でうなずいた。
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