077話 総攻撃
魔物の暴走を退けたばかりだというのに、ステラは表情を引き締めている。
「ゴンドアナ王国からの軍勢がセドナに迫っています。それだけでなく、タシュバーン皇国とメドリカ王国の軍勢も、我が国に向けて進撃しています」
予想もしていなかった事態に、カズヤは言葉を失った。
ステラの要望に応じて、アリシアとバルザードが駆けつけた。
「今回の襲撃は魔物だけではありませんでした。魔物の襲撃を合図にして、エルトベルクを囲む全ての国が一斉に進撃してくる作戦です。ここセドナに向かってきているゴンドアナ軍の兵数は約1万人です」
「1万人!? 前回よりも多いじゃないか。魔物の混乱も奴らの作戦だったということか」
ステラがいると諜報作業がはかどるが、さすがにこれは聞きたくない情報だった。
「前回で奴らの戦力をほとんど削ったはずなのに、まだ余裕があるのか!?」
「余裕は無いと思いますが、強引にでも攻めてこざるを得ないようです。上から命令でもされているのでしょう」
しかも、エルトベルク軍は魔法が使えない。アリシアが教えてくれようとはしているが、皆が使いこなすにはまだまだ時間がかかる。
「さらに、西で国境を接するメドリカ王国から、4000人の兵士がエストラを目指して進軍中です。また、東のタシュバーン皇国からも、7000人が国境を目指して首都を出発しています。3日後にはここセドナに到着します」
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「エルトベルクを囲む全ての国が、攻め込んできているというのか……」
衝撃的な報告だった。何という絶望的な情報だろうか。
ゴンドアナ王国一国だけでも苦戦していたのに、さらに他の二か国も攻め込んできている。
連戦によりエルトベルクの兵数は減っており、防ぐ準備はまるでできていない。
「ここセドナにゴンドアナ軍とタシュバーン軍。エストラにメドリカ軍が攻めてきているのね。私たちの兵力はエストラの防衛隊を合わせても4000人もいないわ。三カ国合わせて2万1000人の兵力を防ごうとするのは、さすがに想定外の事態ね」
いつもは明るいアリシアも、流石に表情が曇っている。
四人は無言で固まっていた。
こんなことは初めてだった。何か対策を練って行動しなければいけない。しかし、ことの大きさに、どう対処して良いのか分からなかった。
そもそも作戦を練っただけで、どうにかなるものなのか。圧倒的な戦力差を前にして思考が停止していた。
ただただ、四人の無言の時間が過ぎていく……。
カズヤはふと我にかえった。
絶望しているだけでは駄目だ。誰も助けには来てくれない。もっと考えなければ。未来はまだ決まっていない。カズヤたちが指示を出さない限り、兵は動けないのだ。
「他に選択肢はないか? 何か見逃している作戦は……」
「選択肢なんか探さないで、新しい作戦を作りましょう。一度に全部を防ごうと考えずに、まずは一つずつ考えるの」
固まってしまった場の空気を察して、アリシアが提案する。
「……そうだな。それじゃあ、まずは10000人のゴンドアナ軍を防ぐ方法はあるか?」
カズヤは自らを落ち着かせるように声を出した。
「兵力差があり過ぎるが、城にこもって防衛するだけなら何とかなるかもしれないぜ。セドナの新市街に籠もるのはどうだ?」
カズヤの疑問にバルザードが答える。
「新市街にはまだ住人がいるから、いきなり防衛拠点にするのは恐ろしいわ」
「それなら、セドナの北部に城が朽ち果てた廃墟があるぜ。そのまま使うことはできないと思うが……」
バルザードの提案を聞いて、カズヤは1つの作戦を閃いた。
「そうか。奴らが来る前に、進路上に新たな城壁を作ってしまうのはどうだ!? バルが言った廃墟も補修してしまえばいい。奴らも短時間で城や壁ができるとは想像してないだろう」
「城壁を新たに作るの!? どうやって?」
「今の街を建設するのと同じ要領だよ。ブロックを積むだけだから、人夫たちだって協力してくれるはずだ。丈夫な城壁と優位な位置からの攻撃があれば、少しは耐えられるだろう?」
カズヤが即興で作戦を考え出す。一夜で作った城壁で、ゴンドアナ王国の兵を足止めにするのだ。
「確かに、街を作るのと同じようにブロックを積み上げるだけなら、私たちにも出来るかもしれないわ」
何とかなるかもしれない。絶望に包まれていた4人に光明が差してきた。
「意外といい作戦があったじゃない」
アリシアが先ほどの光景を思い出して笑っている。
勝手に見切りをつけて諦めてしまったら、新しい考えは湧いてこないのだ。
「そうなると、建設の為に少しでも時間を稼ぎたいな……。ステラ、あの手段を使うしかないと思うんだが」
「分かりました。1機だけならすぐに発射できます。連射はできないので注意してください。2発目を撃てるのは数日後です」
「敵の指揮官を倒すことが出来れば時間を稼げるし、うまくすれば撤退してくれるかもしれない。指揮官がどこにいるか分かるか?」
「分かります。ゴンドアナ軍は急ごしらえの大軍なので統制はバラバラです。付け入る隙はあるはずです」
そう言うと、ステラはすぐさま遠隔操作を始めた。
「……ちなみに、他の2機は使えるのか?」
「時間を頂ければ、すぐに射程範囲に入るように移動させます。数時間は必要ですが」
「それでも構わないから準備してくれ。こうなったら、どんな攻撃方法でもいいから利用していかないと」
「ちょっと、二人は何の話をしているの!?」
アリシアが思わず口をはさんだ。
「宇宙から衛星で攻撃するんだよ」
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