075話 銀色の猿王
残されたギガントエイプと、カズヤとバルザードは向き合った。
ギガントエイプはバルザードに向かって巨大な手を振り下ろす。
バルザードは素早く槍を縦に構えてその攻撃を防ぐ。バルザードの手には剣ではなく、得意の槍が握られていた。
すぐさま槍の柄でギガントエイプの手を払いのけると、今度は前身めがけて突き刺した。
しかし、猿のような身のこなしで巧妙に体をひねって攻撃を避ける。
そこにカズヤも追撃した。
剣を握りしめる手に力を込めると、ギガントエイプの足元を狙う。巨獣の足が地面から浮く隙をついて、剣を高く振り上げて腹部を突き刺した。
ギガントエイプの大きな叫び声が辺りに響く。
しかし、その傷は致命傷にはならずに、さらに鬼気迫る勢いで襲い掛かってきた。
バルザードはその攻撃を巧みに正面からかいくぐる。
ギガントエイプの身体に連続で槍を突きさしていった。まるで雷のような高速の動きで、魔物の身体に無数の傷を刻み込む。
その隙に背後に回り込んだカズヤが、全力で剣を振り下ろした。ギガントエイプの肩から斜めに切り下ろす。
電磁ブレードの鋭い切れ味で、水を切るように滑らかにギガントエイプの肉体を切り裂いていく。巨獣は空に向かって咆哮をあげた。
そして、受け身もとらずに地面に倒れると、やがて動かなくなった。
*
黒耀の翼の方も、ロードエイプと息詰まる攻防を繰り広げていた。
ロードエイプの低い唸り声が、戦場の緊迫感を一層高めている。
魔獣の目は金色から血塗られたように真っ赤に変わり、その全身からは黒く濁った魔力のようなものが放射されていた。
リオラは遠方から弓と魔法を使って攻撃する。
しかし、ロードエイプの身体に傷一つ付けることができない。弓矢は筋肉で弾かれ、魔法は当たる直前に霧散した。
「やはり生半可な魔法では傷つけられんのじゃな。リオラ、お主は援護に回れ。儂の魔法を見せてくれるわ」
ゼーベマンは手に持った杖に力を込める。
老人とは思えない早口で、長い呪文を詠唱する。髪が逆立ち服をひらめかせながら、杖に莫大な魔力が込められる。
「喰らうがいい、
無数の氷の雨がロードエイプに降り注ぐ。
その魔法は弾かれることなく直撃した。魔物の抵抗力を上回る威力があれば、魔法でも攻撃できるのだ。
攻撃をくらったロードエイプは、怒りに満ちた目で黒耀の翼に向けて威嚇した。
近くにあった大きな岩を持ち上げると、ゼ―べマンに向かって投げつける。岩は途中を遮っていた樹木を粉砕する勢いで飛んでいくが、ゼーベマンの前にイグドラが立ちはだかった。
イグドラの大きな盾で岩の軌道を反らす。
何かの魔法が込められているのだろうか。あれだけの攻撃をうけても、盾には傷がついていなかった。
さらにイグドラは怪しく光る大剣を持ち直すと、ロードエイプの足元へと突進した。
猿の魔物は、その巨体に似合わない驚異的なスピードで、イグドラの攻撃をかわす。
だが、その背後からはステラが素早く忍びよっていた。
おそらく黒耀の翼から借りた剣であろう。見たことも無い大振りの剣で背中を斬りつける。細い身体からは想像もできない強い力で、ロードエイプを弾き飛ばすほどの勢いで切り裂いた。
魔獣の叫び声が森に響き渡る。ロードエイプは怒りに任せて闇雲に反撃する。
しかし、その攻撃は見当違いの方向へ向けられていた。
巨大な魔物の体当たりが、戦闘を見守っていたカズヤを襲ったのだ。ザイノイドの自動防御でもかわしきれないほどの巨体のタックルだ。
予想外の攻撃にカズヤは身動きがとれない。
当たる……!
カズヤが直撃を覚悟した瞬間に、ロードエイプの身体が横に吹っ飛んだ。
間一髪で、ステラの攻撃がカズヤを守ったのだ。
「……マスター、危ないので離れていて下さい」
ステラはカズヤの目も見ずにポツリとつぶやく。そして再び戦闘へ加わっていった。
(俺のことをマスターと言ってくれたのか……)
カズヤは、助けてくれたステラの姿を追いかける。先ほどの声が耳から離れなかった。
黒耀の翼とロードエイプとの戦闘も終盤を迎えていた。
リオラの攻撃が魔物の足元を狙った。自分の弓矢や魔法が効果が無いことが分かると、足元の地面を狙って態勢を崩そうとしていたのだ。
リオラの魔法によってえぐられた地面に足をとられて、ロードエイプは激しく倒れた。
その隙をシデンの剣が見逃さない。見事なチーム攻撃だった。
「あ、あの攻撃は!?」
シデンの攻撃を見ていたカズヤは思わず声が漏れる。模擬戦のときに、カズヤが思わず剣を放り出してかわした攻撃だった。
「うらあああ!!!」
シデンの鋭い剣戟には、さらに魔法の力が乗っている。
光る刀身が凄まじい破壊力でロードエイプを襲いかかった。
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