073話 魔物の襲来


 カズヤたちが移住者をセドナまで送り届けてから数日後。


 地鳴りのような音がセドナの旧市街に響いた。かすかな振動が街を揺らしている。



 地面が大きく揺れている訳ではないが、静かな地響きが遠くから伝わってくるような感じだ。


「遠くで地震でもあったのか!?」



 揺れとなると一同に強い緊張が走る。エストラでの崩落を思い出したのだ。


 エルトベルク国内にはエストラのような空洞が幾つもある。


 そのような場所で生活することを100年前に強いられたのだ。そのうちのどれかが崩落してしまった可能性がある。



 カズヤは近くにステラがいないことを不安に感じた。


 いつものようにステラに尋ねることも出来ない。今までどれだけステラに頼ってきたのかが分かる。



「まずは自分で情報収集しないと……」


 カズヤが情報をやり取りできるのは一度に1台だけなので時間がかかる。


 どこのボットに尋ねるのが適切なのかも分からない。状況を把握するためには、手当たり次第に連絡を取ってみるしかないのだ。



 15台目かのボットの報告で、セドナの南方で不自然な崩落が起こったことが分った。


 そして、20台目あたりの報告で森に棲んでいた魔物たちがパニックになって、セドナの街に向かって動きだしていることが分かった。




「大変だ! 魔物がこっちに向かってきているぞ! 急いで準備をしないと……」


 カズヤは慌ててアリシアに報告する。



「ゴンドアナ王国と対立している最中にこんなことが起こるなんて、偶然かしら?」


「ゴンドアナかアビスネビュラかは分からないが、魔物を誘導して攻めてくる可能性はある。たた、今はとにかく魔物を防ぐことが最優先だ」




 カズヤが情報を集めているうちに、セドナの街に魔物が押し寄せてきた。


「みんな、聞いてくれ! 新市街は魔物に包囲されてしまっている。あまり魔物の数が多くない旧市街の方に避難してくれ」



 まずは、人夫たち一般人を避難させる。


 彼らは体格はいいが戦闘が得意なわけではない。もちろん魔物と戦うような訓練も受けていない。


 新しく建設したばかりの壁の向こう側には、大量の魔物の姿が見えてきた。すみかを突如奪われてしまったので魔物も気が立っている。




 しかし、魔物との戦闘が始まった直後、想像もしていなかったような事態に直面した。


「おかしいわ!? 魔法が使えない!!」


 新市街の外壁で魔物を待ち構えていた、アリシアたち魔法使いから悲鳴が上がった。


 そして、同じような声が周りの兵士からも上がってくる。



 魔法を唱えようとしても魔力が集まらずに魔法化しない。紋様も現れないし、魔法の種類に関係がなかった。


 火魔法、水魔法、雷魔法……。全ての魔法が発動しなくなっていた……!



「なんだって!? 魔法が使えないなんて、どういうことだ?」


「分からない、こんなことは初めてよ。魔力不足な訳でもなく、詠唱を間違えている訳でもない。私だけではなく他の兵士も使えなくなっているわ」



 カズヤはふと胸騒ぎを感じた。


「アリシア、これがアビスネビュラの攻撃だということはないか?」


 ハッとした様子でアリシアがこちらを見る。



「ひょっとしたら魔術ギルドの仕業かもしれないわ。魔術ギルドとの魔法契約を、一方的に破棄されたのかもしれない」


「そんなことが許されていいのか? 魔術ギルドとの魔法契約は、危険な魔法を管理するためとか言ってただろう。これじゃあ、自分たちに都合の悪い人間を無力化するためじゃないか!」


 カズヤは思わず強い言葉になる。



 魔法を使えなくなるのは魔法使いだけじゃない。


 攻撃魔法を使わない一般の人は問題ないが、騎士や兵士、冒険者にとっても死活問題だ。



「もし魔法契約のせいだとすると、一生使えないままなのか?」


「そうなるわ。魔術ギルドと契約し直さないかぎり、魔法を使えない仕組みよ」


 あまりの影響の大きさに言葉を失う。



「私はこれを危惧していたのよ。魔術ギルドが全ての魔法を管理するなんておかしいって。その気になれば、こんなことも出来てしまうの」


 アリシアが憤る。



「もし、この襲撃を無事に生き残れたら、私の独自の魔法を皆に伝えてみるわ。使えるようになるまで時間がかかると思うけど、全く使えないよりはマシだと思うから」


 気丈にもアリシアは未来に目を向けている。



 しかし、アビスネビュラが本気でエルトベルクを潰しにきている。


 魔術ギルドを完全に操って利用しているのだ。魔法を不当に管理されていたことに怒りが込み上げてくる。



「ちなみに影響があるのは魔法使いだけじゃないぜ。魔力で基礎能力を強化している戦士たちにも影響がある」


 そうだ。魔力がある戦士は、体内に魔力を巡らせて強化していると言っていた。



「おい、バルザードは大丈夫なのか!?」


「ああ、大丈夫だぜ。俺様が魔術ギルドなんかと契約するはずないだろう。俺様の魔法は自分で身につけた魔法だ。いちゃもんをつけて封印しようとしてきたが、追い払ってやったさ」



 バルザードほどの力があれば、支配下に入らなくてもいいのか。


 とにかく、バルザードだけでも強化魔法が使えることに安心する。



 それにしても、エルトベルクだけが魔法を使えないというのは、とんでもないハンデだ。


 セドナを守る兵士の混乱を尻目に、魔物の襲撃はすでにセドナへ到達している。



 魔物たちが城壁を乗り越えようと突進してきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る