072話 通信拒否

 

 突然目の前に現れた予想外の敵兵に、グリフォンたちが動揺する。



 カズヤの指示でボットたちの攻撃が開始された。ボットの攻撃は、全てエネルギーを変換したレーザー攻撃だ。


 しかし、ボットの光線はグリフォンに弾かれてしまう。グリフォンは魔法抵抗が強いので、光線による攻撃は効果がないのだ。



「グリフォンには効果が薄いぞ。操縦している兵士を狙って地上に落とすんだ!」


 前もってカズヤの指示はボットに伝えてある。グリフォンの上に乗っている操縦士は魔法の抵抗力が低いので絶好の標的になるはずだ。




 攻撃を受けた操縦士たちは次々と地上へと落ちていった。地上に落ちた敵兵はバルザードたちが待ち構えている。 


 とにかく、空中にいる兵士を叩き落として、グリフォンを自国へ追い返すのだ。



 操縦士を失ったグリフォンは、抵抗をやめて自国へと逃げ帰っていく。


 交戦することすら想定せずに進撃してきた部隊は、突然の急襲を受けて背中を見せてすぐに逃げ出した。しかし、みすみすこのまま逃がしてやるつもりはない。



「二度と襲ってこれないように、徹底的に追い掛けてやる。疲れ知らずなのが俺の武器だからな」


 カズヤはゴンドアナ王国との国境付近までグリフォン部隊を追い掛けると、追撃でさらに多くの敵兵を追い落とした。




 カズヤが移住者の列に戻ると、バルザードたちが落ちてきた兵を捕えていた。


「とりあえず無事に撃退できたわね」


「何度攻めてきても、空からの攻撃は意味が無いということを思い知らせないとな」




 その後も空からの襲撃があったが、全てカズヤたちが跳ねかえした。合計で3回ほど追い返すと、グリフォン部隊の数は30騎を下回っていた。


 そして最終的には空からの攻撃はなくなり、3日後には何とか全員をセドナまで送り届けることに成功したのだった。




 セドナに到着すると、カズヤとアリシアは黒耀の翼を探した。


 あの後もグリフォン部隊の襲撃があったが、黒耀の翼が再び撃退してくれたとの報告があったのだ。


 黒耀の翼を発見すると、そこにはステラの姿もある。


 カズヤは思わずステラの元に駆け寄った。



「ステラ、黒耀の翼に入ったのはしょうがないが、襲撃の情報くらい教えてくれてもいいじゃないか!?」


「教えましたよ。内部通信を使いました。しかし、拒否されていたので伝えられなかったのです」


 何だと!? なぜそんなことになってしまったのか。



 ステラは緊急の通信を行なってくれたのに、カズヤが拒否していたのだ。


ステラが嘘をつくことは考えられない。カズヤの方にミスがあるはずだった。



「以前私がしたように、内部通信は一方的に拒否することもできます。私が情報を伝えた時には、すでにこちらからの情報を拒否する設定になっていました」



 カズヤははっとして気が付いた。


思 い当たる点がある。捕虜の件で、ステラと意見が食い違った時のことだ。内部通信で返答を拒否されたときもそうだ。


 カズヤはステラから目を背けて情報を拒絶した。連絡を取る気を失っていた。内部通信を切ったままにしていたのだ。



 その様子を、黒耀の翼は何事かという表情で眺めていた。


「おい、小僧。ステラは我が国の重要な国賓だぞ。気安く話しかけるのは止めるのじゃ」



 ゼーベマンが間に入ってくると、カズヤも冷静さを取り戻した。シデンの方へ向き直ると、深々と頭を下げた。


「シデン、ゴンドアナ軍を撃退してくれて助かった。ありがとう」



 正直、黒耀の翼にはいい気持ちを持っていなかった。


 しかし、彼らはそんなことは関係なく、冒険者としての任務をしっかりと果たしてくれた。



「気にするな。市民が襲撃されていれば、相手が魔物だろうと兵士だろうと防ぐのは当然だ」


 シデンは当たり前のことで、全く気にしていないという風にさらりと言った。



「だが、お前たちがゴンドアナ軍を倒したことは、国際問題にならないのか?」


 カズヤはエルトベルクとゴンドアナ王国の問題に、タシュバーン皇国を巻き込んでしまっていないか気になっていた。



「何度も言うが、俺たちは冒険者としてここに来ている。この街の周辺の森にギガントエイプが潜んでいるのは間違いないはずだ。他の奴らが国際問題にするなら、堂々と道理を語ってやる。もしそれでも判らないなら、痛い目にあってもらうしかない」


 シデンはきっぱりと言い切った。



「シデン皇子、今回の件は深く感謝します。あなたたちのお蔭でセドナの市民を護ることが出来ました。以前は失礼な態度をとって申し訳ありませんでした」



「お前らは真面目過ぎる。逆の立場だったら襲撃を見過ごしていたか? そんなことはないだろう、気にする程のことじゃない」


 深く頭を下げたアリシアを見て、シデンが珍しく小さな笑顔を見せる。そして、その場を立ち去った。



 シデンからは民を護るという統治者の覚悟が感じられた。


 バルザードが以前言っていた、「見た目は冷たそうに見えるが情に厚い」という噂が間違っていないことを、カズヤは実感したのだった。

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