071話 王都民大移動
国王が、住民をセドナに連れて行ってくれるようにカズヤにお願いする。
ようやくカズヤの頭が情報に追いついてきた。
今回の襲撃を受けて、エストラから移住したいという人が増えてきたのだ。
また次の攻撃を受けたら、さらに崩落が進むかもしれない。彼らの気持ちは理解できた。
「何人くらいでしょうか?」
「2000人はいるだろう。ひょっとしたらもう少し増えるかもしれない」
2000人……。それだけの民間人を連れて移動することが想像できなかった。
「彼らは自分たちの食料は持つし、野営用のテントも持たせる。セドナに着いてテント暮らしになっても構わないと言っている。任せられるだろうか?」
「……分かりました。責任をもって送り届けます」
カズヤははっきりと引き受けた。
きっと大丈夫なはずだった。
セドナでの街づくりはボットたちのお蔭でかなり進んでいる。
できあがった家から住んでもらうことにすれば、テント生活はそんなに長くならないはずだ。
「すでに荷物をまとめるように伝えてある。明後日の朝一番に出発するように準備してくれ」
「もちろん私たちも協力するわよ」
アリシアが無理やり笑顔を作って励ましてくれる。
エストラの襲撃を防げなかった借りを返さなければいけない。
再び空からの襲撃があるかもしれないが、同じ失敗は二度と繰り返さない。
カズヤはこぶしを固く握りしめた。
*
最終的に3000人近い移住希望者が集まった。セドナまで徒歩で進むには3日ほどかかる。
ゴンドアナ王国の空からの襲撃をおそれるだけでなく、地上にいる魔物や盗賊の襲撃にも警戒しなければいけない。
カズヤは昨日一日の間に、100機近いF.A.を護衛として呼び寄せていた。移住者に近付く魔物がいたら、自動的に迎撃するように指示を出してある。
そして、3機の空中砲台も呼び寄せてあり、ウィーバーに乗ったカズヤとアリシアやF.A.と共に、空からの襲撃に備えた。
3000もの人が列を作るだけで、数kmもの行列になる。その端から端までを疲れ知らずのカズヤが中心となって護衛するのだ。
そんな移動中に、一人の男性がカズヤに話しかけてきた。
「……あんたがカズヤさんかい? 昨日はどうして襲撃に間に合わなかったんだよ。空からの攻撃で俺の仲間がやられちまった。あんたがエストラに来てから不幸な事件が続いているじゃないか」
男性がぶつけてきた言葉は、カズヤにとって痛いものだった。
男性は無力でやるせない思いを八つ当たりしているだけかもしれないが、カズヤは何も言い返せなかった。
ステラと喧嘩さえしなければ、昨日の空襲は防げていたかもしれないのだ。エストラを襲撃しているのはアビスネビュラだ。
だが、何も知らない市民からすると、カズヤたちが来てから被害が拡大しているように見えてもおかしくはない。
しかし、沈黙するカズヤの代わりに他の市民が割って入ってきた。
「おいおい、カズヤさんに何てことを言うんだよ! この人が来てくれたから被害がこれだけで済んでいるんだぞ。カズヤさんに助けてもらった人はたくさんいるんだ!」
その言葉を聞くと、不満をぶつけてきた男はすごすごと列の方へ戻っていった。
「カズヤさん、あんな奴を気にする必要は無いぜ。あんたが一生懸命俺たちを助けてくれようとしているのは皆分かってるんだ。
あの2回目のエストラの崩落のときに、俺はあんたの声を聞いて、王宮に逃げて命を救われたんだ。あんたに感謝している市民だって、いっぱいいるんだぜ」
その言葉を聞いたカズヤは、涙が流れそうになった。
カズヤが自分の命をかえりみずに、市民たちに避難を呼びかけたことで救われた人がここにもいたのだ。
結果としてカズヤはザイノイドになってしまったが、それによって救われた人が何人もいるなら、報われるような思いだった。
出発してから二日目。
ゴンドアナ王国の周辺に放っていたボットから、グリフォン部隊がエストラに向かって出発した情報を手に入れた。
「空中戦は、カズヤや姫さんたちに任せるぜ。地上に落下した敵は、俺たちが捕まえてやるからな」
地上での警備は、バルザードを中心とした冒険者たちにお願いしていた。
「前回の襲撃の借りを返してやろう。奴らは空中戦があるなんて考えてないはずだ」
カズヤは移住者の行列から1kmほど離れた森の中で、ボットたちと共に伏せていた。
その後ろには、ウィーバーに乗ったアリシアやバルザードたち地上部隊が伏せている。
遠くから飛んで来るグリフォンの姿が見えてきた。
やはり移住者たちを襲撃する予定だったのだ。空中で編隊も組まずに自由に飛んでいる。
エストラを奇襲してきた奴らに、今度は痛い目を合わせてやるのだ。
「よし、今だ! 全部叩き落としてやるぞ!」
カズヤの指示で、地上のボット達が一気に垂直上昇する。
カズヤとアリシアのウィーバーだけでなく、空中砲台3機と100機以上のF.A.が同時に浮上する。
100機以上のボットたちが急上昇するのは圧巻の光景だった。
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