070話 エストラ空襲
エルトベルクの旧首都エストラへの、ゴンドアナ王国の空襲は突然だった。
前の崩落から、市民が少しずつ普段の生活を取り戻している最中のことだ。
エストラの城壁で警備をする兵士が、北方の空に魔物の姿を発見した。
「……あれは魔物か!? いや、人が乗っているぞ!」
近付いてきたのはグリフォンと呼ばれる魔物だった。しかも、その上には操縦士のような人影も見える。
「……あれは、ゴンドアナ王国のグリフォン部隊じゃないか!? 急いで陛下に報告しろ!」
報告が国王に届いた時には、グリフォン部隊による空からの攻撃が始まっていた。
一気に急降下をして民衆を襲う兵士。魔法を使って建物を破壊する兵士。爆発する魔石を使って街を破壊する兵士。
さまざまな攻撃でエストラの街を襲撃してきた。
その数はおよそ100騎ほど。
地上にいる兵士に、対抗する手段はほとんどなかった。
地上から魔法や弓で攻撃するが、グリフォンは魔法に対する抵抗力が大きい魔物だ。生半可な攻撃では傷一つ付けられない。
そもそも、エルトベルクは空中戦を戦える戦力を全く持っていない。
それを知ったうえで、100騎という少数での襲撃を仕掛けてきたのだ。
ステラがいればボットたちの情報網により、事前に気付くことができたはずだ。
しかし、肝心のステラは黒耀の翼と行動を共にしており、その情報がカズヤに届くことは無かった。
カズヤは、ボットたちと内部通信で連絡を取り合うことはできるが、常に一対一でしか情報を得ることができない。
さらに、情報過多を避けるために、カズヤの方からアクセスをしない限り情報が入ってこない形にしている。
今回の襲撃を、カズヤが事前に察知することは不可能に近かった。
ゴンドアナ王国のグリフォン部隊が、エストラの街を蹂躙する。泣き叫ぶ者、走りだす者、抵抗する者。街は大混乱に陥っていた。
そして、最も恐れていた事態が起こった。
攻撃による激しい衝撃を受けて、再びエストラの街の崩落が始まってしまったのだ。
幸いなことに全部ではなかった。
しかし、以前と同じくらいの規模の崩落だ。底が見えない暗闇に多くの人と建物が吸い込まれていく。
境界にいる人たちは我先へと市外へ逃げ出した。
さいわい崩落が連鎖することは無かったが、再び起こった災厄に市民の心は恐怖に囚われた。
夕方遅くに、ウィーバーに乗ったカズヤとアリシア、バルザードがエストラに到着した。
その時には、すでに想定以上の収穫を得たグリフォン部隊は、無理せず退却していた後だった。
カズヤたちが着いた頃には、被害を受けたエストラの街だけが残されていた。
「……お父様、ご無事ですか!?」
アリシアは真っ先に王宮へと駆けつけた。国王は王宮の地下へと避難しており無事だった。
「ああ、私は大丈夫だ。突然の襲撃で、国境警備の兵からは侵入の報告は入ってこなかった。おそらく前回の地上戦の時に、我々の防衛網を調べていたに違いない」
国王は、エストラに残った民衆の移住のために、食糧と物資の補充に専念していた。
その作業中にグリフォン部隊が襲ってきたのだ。
カズヤは瓦礫と化した建物と、拡大した空洞を見つめて放心状態だった。
そして、さらに王の間に駆け込んでくる急使が凶報を伝えた。
それを聞いたバルザードは、珍しくいったん気持ちを落ち着かせる。
そして、冷静さを取り戻してから、アリシアたちに報告した。
「陛下、姫さん。冷静に聞いてください。同じ時間帯にセドナにも、ゴンドアナ王国のグリフォン部隊の襲撃にあったようです」
何ということだ! カズヤたちがセドナを離れた隙に襲撃をかけたのだ。
「さいわい、黒耀の翼とステラがいたお蔭で退けられました。大きな被害はなかったようです」
黒耀の翼とステラのお蔭……。大きな被害にならなかったことに安堵する一方で、黒耀の翼に助けられたことに驚いた。
彼らはタシュバーン皇国としてではなく、冒険者として街を救ってくれたのだろう。
気に食わない奴らだという印象もあったが、セドナの街を救ってくれた。
それは、いくら感謝してもし足りないくらいの功績だった。
それにしても、ステラはこの襲撃を知っていたのだろうか。
いくら黒耀の翼に入ったとはいえ、情報くらいカズヤに教えてくれても良かったのではないか。
カズヤは心がもやもやとして、頭の中がまとまらなかった。
「……。……ズヤ。もう、カズヤったら!」
アリシアがカズヤに向かって大きな声をあげた。慌ててカズヤは顔をあげる。
「ぼうっとして大丈夫!? お父様がカズヤにお願いがあるっていうのに、何度呼びかけても反応しないんだから」
衝撃的な出来事が続き、カズヤの頭が付いてきていない。
「カズヤくん、すまないがお願いがある。今回の襲撃を受けて、エストラの街を一刻も早く離れてセドナに移住したいという者があふれているのだ。
セドナの準備はまだできていないだろうが、エストラの家も壊れてしまったから彼らは気にしていない。護衛してセドナまで連れて行ってくれないだろうか?」
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