069話 経済封鎖


 ステラはカズヤの質問には答えず、内部通信インナーコネクトも断られてしまった。


 カズヤは何度も問いかけるが、ステラは返答してくれない。

 

(何なんだよ、あいつ。一度命令したくらいで敵につくなんて……)



 カズヤがマスターとしての主従関係を持ち出して命令すれば、ひょっとしたら戻ってきてくれるかもしれない。


 しかし、捕虜の件で気まずくなったことを考えると、おいそれと命令する気にはなれなかった。


 カズヤは連絡を取る気もしなくなり、ステラとの内部通信インナーコネクトを切ってしまった。




 思わぬ形でステラが去っていってしまったことで、カズヤは調子が狂っていた。


 そして、そういう時ほどボットの不調が続くものだ。


「このボットにどうやって指示を出せばいいのか分からないな……」



 今まで機械類の操作や整備の仕方についてはステラに頼りきりであったため、いなくなってしまった影響は大きかった。


 遷都の建設スケジュールも、大幅に遅れることになりそうだ。


「今までステラに頼り過ぎていたかもしれないな。少しは自分でできるようにならないと……」



 マスターとして強引に命令したのは初めてだった。


 たしかにザイノイドであるステラは、人間であるカズヤの命令に従うようになっている。しかし、ステラが人間と同じように意思や感情を持った存在であることも分かっていた。


 ステラに命令を押し付けたことに、カズヤは少なからず気まずさを感じていた。




「カズヤ、悪い知らせが2つあるわ」


 アリシアが深刻な表情でカズヤを呼び止めた。


 つい先日にも捕虜の交換が断られた件があったはずだ。さらに何があるというのか。



「メドリカ王国と取引ができなくなったわ。昨日、突然エルトベルクとは商品の売買はできないと言って断ってきたの。魔石だけでなく全ての物資よ」


 メドリカ王国はエルトベルクの西側で国境を接している国だ。カズヤのアイディアで生成した魔石を主に売買しているところだった。



「こんなに突然、取引が中止になるなんて……。こんなことは今までにもあったのかい?」


「いいえ、初めてよ。アビスネビュラが後ろから指示を出しているのかもしれないわ」



 この世界を支配しているアビスネビュラからしてみると、メドリカ王国に取引停止を命令するなど簡単なことだ。


 ゴンドアナ王国による侵略が失敗したことで、いよいよ本腰を入れてきたのかもしれない。



「これだと、外貨や貴重な物資を得る手段が無くなってしまうな」


「タシュバーン皇国との取り引きを、拡大しなければいけないかもね」


 タシュバーンとはそれほど友好的ではないが、せっかく作った魔石の売り先がないと困る。



 当然のことながら、先日の戦闘以来、ゴンドアナ王国とは取引が停止している。


 もとを辿れば、ゴンドアナ王国の紛争に加担するための出兵をしないと決断したことが、アビスネビュラへの反抗のはじまりだった。



「そうなると、黒耀の翼にお願いすることになるのか。それだけは避けたいなあ」


 タシュバーン皇国の皇太子であるシデンにお願いするのは気が引けた。ましてやステラが加入している今ならなおさらだ。



「しばらくは、自国内で物資を回すしかないか……」


 近隣からの輸入がストップすると、遷都に伴う全ての物資を自国で間に合わせなければならなくなる。


「足りるかしら? 例年でも豊かな生活ができている訳では無いから……」


 アリシアの不安は無くならない。




「それで、もう一つの知らせって?」


「エルトベルクが発行する通貨が、国外で使えなくなったという報告が商業ギルドからきたの。Eエルツでの支払いを断られるから、取引ができないと苦情がきているわ」



「そうか、そんなことが……」


 この世界では国ごとに通貨を発行している。


 周辺国で交換レートこそ変わるが、今まではエルトベルクが発行するEエルツ通貨は問題なく使えていたはずだ。



 自国通貨が使えなくなるのは、あり得ない程の大問題だ。これは国家の信用に関わってくる。


 こんな大問題が起こってしまうと、これを機にエルトベルクから離れる商人が出てくるかもしれない。


 大きな混乱は避けられなかった。



「どうやら国境の貿易だけでなくて、エルトベルクの存在自体を認めたくないようだな」


 これもアビスネビュラの仕業であることは間違いなかった。


「いよいよ、本気を出してきたわね」


 周辺国との商売上の取引は、事実上不可能になったということだ。



「ただ、これくらいのことで降参する訳にはいかない。他国には頼らずに自国だけで賄えるようにしないと……」


 カズヤは、エルトベルクが周辺国から孤立していることを実感した。




 そして、その日の夕方、最悪の知らせがカズヤに届いた。



 新市街で作業を続けるカズヤの元に、アリシアが血相を変えて走ってきた。


「エストラの街がまた崩落したわ!! ゴンドアナ王国の空襲よ!」


 カズヤは時が止まったように固まった。

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