067話 ステラとの衝突
シデンは剣を持つ腕に意識を集中する。そして、力を溜めたかと思うと腕が怪しく光った。
次の瞬間、鋭い剣先がカズヤの腕を襲ってきた。
その動きを見た瞬間に、カズヤは素早く後ろへ飛び退いた。
そこへ、シデンの魔法剣がうなりをあげて追い掛けてくる。
カズヤの電磁ブレードを弾き飛ばした。電磁ブレードは軽々と宙へ舞っていった。
(な、なんだ、あの攻撃は!? 魔法か!?)
初めて見た攻撃だった。通常の攻撃ではない。魔法が込められた不可思議な一撃だ。
電磁ブレードを弾き飛ばしたシデンの剣は、地面に深くめりこんでいて土煙をあげていた。
「いい判断だな。あのまま持っていたら、お前の腕が飛んでいたかもしれないな」
冗談で言っているとは思えない威力だった。模擬戦のくせに恐ろしいことをする奴だ。
「カズヤ、お前はまだ本気を出していないだろう」
「……それはお前も同じはずだろ?」
「ふふ、面白い戦いだった。久しぶりに血がたぎったぞ!」
シデンは笑うと剣をおさめた。模擬戦が無事に終わってカズヤはホッとする。
「挨拶は済んだな。それでは、もう少しこの街に滞在させてもらうぞ」
そう言い残すと、黒耀の翼は新市街の方へ歩いて行った。
「よくやったじゃないか、カズヤ! シデン相手にいい勝負だったぜ」
観戦していたバルザードが駆け寄ってきた。
「奴は最後に腕に魔力をこめていたな。人並み外れた強化魔法が奴の得意技かもしれないぜ」
人並み外れた能力強化の魔法ということか。
確かにあの攻撃をまともに受けていたら、身体ごと吹っ飛ばされそうな威力だった。
しかし、シデンの戦闘データを手に入れたのは大きかった。先ほどの目くばせで気付いたステラが、シデンの攻撃方法をトレースしてくれているはずなのだ。
シデンから得た攻撃パターンは、何よりも得難い収穫だった。
*
セドナに黒耀の翼が現れて数日したころ、アリシアが暗い表情でカズヤの方に歩いてきた。
「カズヤ、少し時間をもらえるかしら? 相談したいことがあるの……」
表情を見る限り、かなり深刻な相談だろう。アリシアに従って、カズヤとステラは旧市街の領主館へ歩いていく。
「ゴンドアナ王国が、捕虜と食料の交換を断ってきたの」
「え、何だって!?」
「それどころか、今後は捕虜に関する全ての取引を停止すると言ってきたの。捕虜の扱いは全てこちらに任せるそうよ」
「捕虜がどうなっても構わないというのか!?」
要するに、ゴンドアナ軍の捕虜たちは本国から見捨てられたのだ。今までの取引にはなかった急な変更なので、裏からアビスネビュラの指示があった可能性もある。
「あと、どれだけの捕虜が残っているんだ?」
「何回かの取引は終わっているけど、まだ3000人近く残っているわ。彼らの今後の処遇をどうするかで悩んでいるの」
捕虜としての価値が無いのなら、3000人もの兵士を養っていくのは大変だ。次の手を考えなければならない。
「セドナの建設を手伝ってもらうのはどうかな?」
「それも考えたんだけど、彼らが素直に手伝ってくれるとは思えないわ。管理する方が大変よ」
たしかに、敵国の兵士が素直に作業してくれるとは思えない。
「仕方がない、彼らを第三国のメドリカ王国の国境近くで解放しよう。養っていく余裕はないんだから」
「マスター、それは甘過ぎます。彼らを解放すればまた兵士に戻って攻めてきますよ」
カズヤの話を聞くやいなや、ステラが反論した。
もちろん、その可能性も考えたが、養っていく方が被害が大きいと考えたのだ。
無言で応じるカズヤに、ステラが言葉を続ける。
「いたしかたありませんが、全員殺しましょう。後顧の憂いを無くすためです」
冷静な面持ちで話すステラの恐ろしい発言に、カズヤの顔色が変わった。
「何てことを言うんだ! 彼らは生きるために嫌々従ってきた可能性もある。誰もが国の命令に逆らえるほど強くは無いんだよ」
思いがけず声が大きくなった。
今でこそ人外の能力を持ったカズヤだったが、つい最近までは一介の会社員に過ぎなかった。
国や権力を相手に反抗できる人間が多くないのは、痛いほど分かっていた。
「彼らはこちらを殺す為に攻めてきたのですよ。戦場に出てきたのだから自己責任です。捕まって殺されても文句は言えないはずです」
「彼らはすでに武器を無くして囚われているんだ。無抵抗な彼らを一方的に殺害するなんて、アビスネビュラの奴らと同じじゃないか!」
「彼らは自ら投降してきた訳ではありません。戦場でこちらが武力を使って捕らえただけです。彼らにはまだ反抗する意思がありますよ」
珍しくカズヤとステラの意見が平行線になる。
大局的に見ればステラが言っていることが正しい気がする。
しかし、それを実践するということは、捕らえた人たちを一方的に殺害することになる。
それではアビスネビュラと同じではないか。
カズヤたちがアビスネビュラに反抗しようとしている、大義すら揺らぐような気がしたのだ。
「ステラ、申し訳ないが命令だ。彼らが再び攻めてきても仕方がない。彼らをメドリカ王国の国境で解放しよう」
「……分かりました。マスターの命令に従います」
その瞬間、ステラの顔がスッと一変した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。