066話 カズヤ対シデン


 次の日、黒耀の翼が新首都の建設現場に来た。


 カズヤも後ろから付いて行く。彼らが何をするのか分からないので、少し様子を見てやるつもりだ。



 カズヤの姿を見つると、シデンが話しかけてきた。


「お前はカズヤとか言ってたな。たしかに魔力が流れていないようだが、本当に魔導人形ではないのか?」


「だから違うと言っているだろう、これでも人間のつもりだ」



「小僧、若への口のきき方に気を付けろ!」


 カズヤの馴れ馴れしい口振りに、ゼーベマンが目の色を変えて突っかかってくる。



「お前たちは冒険者としてここにいるんだろう。それなら敬語じゃなくても構わないじゃないか?」


 黒耀の翼は、冒険者と王族の立場を都合よく使い分けてくる。そのことに、いらだちを覚えていたカズヤは少し強めに言い返した。



「ふふ、その通りだ。爺、気にするな」


 シデンは楽しいことを言われたように笑って受け流した。


 アリシアもそうだったが、この世界の王族はタメ口を使われるのが、そんなに楽しいのだろうか。




「それにしても、お前からは危険な香りがする。強さの底が知れない」


 シデンは値踏みするようにカズヤを見た。ザイノイドとしての実力を見抜いているのかもしれない。



「どうだ、俺と模擬戦をやってみないか?」


 シデンの言葉に黒耀の翼のメンバーが色めきたった。ここで模擬戦を行なう予定は無かったのかもしれない。



 それにしても、血の気の多い皇子様だ。他国で堂々と喧嘩を売るなんていい度胸をしていた。


 しかし、Sランクというこの世界の最高峰の強さを見ておくのは、カズヤにとっても悪い話ではなかった。




「いいだろう。実剣を使うのか?」


「お前が怖いのであれば木刀に変えてやってもいいが……」


「安い挑発だな。乗ってやるよ」


 黒耀の翼に腹が立っていたカズヤは、いきおい言葉も強くなっていく。



「おい、カズヤ。シデンが使っているのは最高級の魔法剣だ。生半可な武器だと剣ごと斬られてしまうぞ」


 バルザードが近付いてきてアドバイスをくれる。


 たしかにシデンが鞘から抜いた剣は刀身が青白く輝いていて、見るからに切れ味が凄そうだ。



「ステラ、俺にも何かいい武器はないか?」


「電磁ブレードがあります。対人戦のようなアナログな戦闘は珍しいので、数は多くないのですが」



 ステラがウィーバーから未来的な剣を取り出した。


 見たところ伸び縮みする杖や棒のような武器だが、棒の部分から光線でできた刀身が発生する。



「そうだ、ステラ。あと、例のあれも頼むよ」


「……はい、あれですね。分かりました」


 カズヤがステラに目配せする。


 この世界の最強の一人と戦えるのだ。この経験を生かさない手はない。




「なんじゃ、その乗り物は!? そんな剣も見たことがないぞ」


 ウィーバーと電磁ブレードに驚くゼーベマン伯爵がうっとうしい。すでに誰も相手をしていない。



 剣を握って準備ができると、カズヤとシデンが向かい合った。


「いいぜ、いつでも来い」


 シデンが挑発してきた。



 望み通り、カズヤの方から攻撃を仕掛ける。バルザードの剣技をトレースした連続攻撃だ。


 以前のカズヤなら目にも止まらない強烈な攻撃だ。しかし、シデンは落ち着いて全ての攻撃を受け止める。



 ぶつかりあった二つの剣は、不気味な音をたてて跳ね返った。


 シデンの魔法剣を相手にしても、カズヤの電磁ブレードが折れることはない。思いきりぶつけても壊れる心配はしなくてもよさそうだ。



「いい剣を持っているな!? 俺の魔法剣を受け止められる剣は、そうたくさんは無いぞ」


 シデンは電磁ブレードを物珍しそうに見つめている。



「次は俺からいくぞ!」


 今度は、シデンからの攻撃が襲ってきた始。目にも留まらない凄まじい剣技だ。


 バルザードよりも速くて強い。これだけ早いと、目や耳で動きを感知できても、カズヤの頭では脳の命令が追いつかない。



 カズヤは、すぐさま自動防御を発動する。


 カズヤが身体の各部に指示を出すよりも早くに、身体が自動的に動いて攻撃を防いでいく。


 自信があった攻撃を防がれたことに、シデンは驚きの表情を見せていた。




 二人の距離は、一瞬にして開いたり詰まったりを繰り返した。魔法剣と電磁ブレードが交差するたびに周囲に怪しげな火花を散らせている。



 先手を取ろうとカズヤが斬撃を放つ。シデンも素早く刀で受け止める。


 今度は、シデンが巧みな足さばきでカズヤの側面をつく。斜めからの一撃がカズヤを狙うが、自動防御が発動して受け流す。


 まさに一進一退の攻防だった。



 カズヤはその間に攻撃の隙を見つけ出そうとしていた。


 しかし、シデン相手にそんな隙は見当たらなかった。思い切って踏み込むチャンスが全くないのだ。



「ふっ……。やはり、思った通りの実力だな」


 シデンは満足そうな表情を見せた。


 カズヤには反撃の手段が思い浮かばない。Sランクのシデンは想像を上回る強さだった。ザイノイドの反射神経だけで何とか防いでいるような状態なのだ。




「それなら、この攻撃はどうだ!?」


 シデンは一度足を止めると、剣を持つ腕に意識を集中する。そして、力を溜めたかと思うとシデンの腕が怪しく光る。


 次の瞬間、鋭い剣先がカズヤの腕を襲ってきた。

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