065話 アリシアとの会談
結局、アリシアは黒耀の翼と面会することになった。
有名な冒険者でもあるが、隣国の王族でもある。ほうっておくことは出来なかった。
新市街は建設中なので、セドナの旧市街にある領主の館で会うことになった。
「これはこれは、シデン皇子。お久しぶりです。今回は冒険者としてこちらへ来たと聞きましたが何の用でしょうか?」
アリシアは氷のような笑顔を浮かべて挨拶した。
シデンと会えて嬉しいなどとは微塵も思っていないことが、言葉と態度にあふれている。
部屋全体に冷気が流れるような、アリシアの冷たい対応だった。
アリシアは、ゼーベマン伯爵がセドナの新首都建設を気にかけているという話もカズヤから聞いていた。
他国の政策に口を出してきた無礼を牽制するための駆け引きのひとつだった。
アリシアの為政者としての本気の顔を、カズヤは初めて見た気がした。
いつもの気さくなアリシアからは想像もつかないような、王族としての厳しい姿だった。
「俺はそのつもりなんだがな。仲間は他のことが気になるらしい」
シデンが言葉少なに言うと、ゼーベマンが終わりかけた会話に横から割って入ってくる。
「お久しぶりでございます、アリシア殿下。私はタシュバーン宮廷魔導師のゼーベマン伯爵です。単刀直入に伺いますが、なぜ新たな街をここに建設されておりますのじゃ? 我が国の国境にもかなり近い場所ですが」
「これは陛下のご命令です。陛下の御心は、私などには推し量ることは出来ませんから」
アリシアとしては、国王を敬ったフリをしつつ有耶無耶に終わらせたい。
「我が国の国防にも関わる話ですじゃ。しばらくこの街に滞在して、様子を見させてもらいますぞ」
「おい、失礼なことを言うなよ! お前たちはエルトベルクの内政に口出しできる立場じゃないだろう」
ゼーベマン伯爵の失礼な態度に、我慢できなくなったバルザードが凄みながら口をはさむ。
部屋のなかが一触即発の、険悪な空気につつまれる。
「とにかく滞在するのは自由ですから、どうぞお好きになさって下さい。新首都の建設は我が国の事情ですので、他国には関係が無い話です」
「それが本当かどうか確かめさせてもらいますね、アリシア殿下。もし、御用があればいつでも声をかけて下さい」
ここへきて初めて口を開いたのが、黒妖精族のリオラという女性だ。
ハルピュイアの一族なのだろうか、彼女の背中からは黒くて大きな翼が生えている。
彼女が『黒耀の翼』の名前の由来だろう。褐色の肌で胸が大きく、グラマラスな身体をしている。男ならばどうしても見てしまうような美しい外見だ。
「こちらからは何も話すことがありません。いつでも好きな時に帰って下さって構いませんよ」
アリシアがリオラの目すら見ずに冷たく返答すると、シデンはフッと軽く笑い出口の方に向かった。
すると、ゼーベマン退室する途中でカズヤとステラを見かけると、二人の前で立ち止まった。
「おお、こいつらは魔力が通っていないようじゃ。こんなに精巧な魔導人形は初めて見たわい」
つられて黒耀の翼の面々が、二人をまじまじと見つめる。
「……おい、初対面で失礼な奴らだな。俺たちは魔導人形じゃないぞ。それに、冒険者として訪れたのに、政治に口を出すのはルール違反じゃないのか」
黒耀の翼の態度にムッとしていたカズヤは、ここぞとばかりに言い返してやった。
「なっ、なんじゃと!?」
人形だと思っていた存在から言い返されて、驚いたゼーベマンは返答できなかった。
「それよりお前らはアビスネビュラの一員なのか? もしそうなら今すぐにでも立ち去ってもらうぞ」
「その名前を軽々しく口にするなよ、小僧! お前たちがエストラで行なったことは、すでに我々に知れ渡っているのだぞ」
ゼーベマンが血相を変えてカズヤに反駁した。
カズヤは鎌をかけてあえてアビスネビュラの名前を出してみたが、知っているということは一員である可能性が高い。
「奴らに喧嘩を売るなんて、なかなか楽しそうなことをしているようだな。無茶な奴らは嫌いじゃない」
シデンはアビスネビュラの名前を聞いても顔色ひとつ変えない。
「フフッ、ここは威勢がいい人間が多いな」
シデンはなぜか満足そうに笑うと、領主の間から出ていった。
「お前らは魔導人形とは全然違うさ、気にするなよ」
バルザードがやってきて二人を慰めてくれる。
魔導人形扱いされたことは何も気にしていない。ただ、シデンとゼーベマンの二人は、アビスネビュラの言葉に反応していた。
「奴らについて、もっと情報を集めないとな」
「黒耀の翼ですか?」
カズヤの独り言にステラが反応する。
「そうだ。話しぶりからすると、他の二人は分からないが、シデンとゼーベマンの二人はアビスネビュラの一員である可能性が高い。奴らからアビスネビュラについて詳しく探れるかもしれない」
奴らの動向には気を付けなければいけない。
カズヤは黒耀の翼への警戒心を高めていった。
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