064話 訪問理由
突如として現れた黒耀の翼のシデンの話を聞いて、カズヤは思わず疑問を口にする。
「そんなに偉い奴が気軽に外を出歩いて大丈夫なのか!? あいつらにとって、ここは外国だろう?」
アリシアが言うように、王族自ら国民の手本にならなければ示しがつかない、という考え方は理解できる。
だが、その身に何かあったときの影響が大きすぎる気がする。
「王族とはいえ冒険者だからな、危険は覚悟のうえだろうぜ。それに、皇太子が有名な冒険者というのは国民の自慢にもなっているん。
タシュバーンは国をあげて、シデンを応援している雰囲気もあるぜ。それに、もし万が一が起こるなら、そいつが実力不足なだけさ。王族には後継者なんて山ほどいるからな」
皇太子が冒険者として活躍することが、国威発揚に利用されているということか。
国のトップの人間が優秀なことは国民の自慢にもなるのだろう。
「それに、黒耀の翼は皇国を代表する強力な仲間に守られているからな。シデンの横にいる老人は宮廷魔道師のゼーベマン伯爵だ。
そんで、ゴツい重装備の男が騎士団イチの実力者イグドラ。それに、黒妖精族のリオラが回復やサポート役で付いているんだからな」
国を代表する実力者が皇太子様を護っているということか。
突如として黒耀の翼が現れたことで、周りの人間達にも動揺が走る。張り詰めた雰囲気になってきた。
「連中のおでましとなれば誰かが相手をしないとな。市民は巻き込みたくない。俺様が行ってくるぜ」
そう話している間にも、奴らは堂々とした足取りでこちらへ歩いてくる。
バルザードが飛び出していった。
「……シデン、あの男は元Sランクのバルザードだ」
青黒い甲冑を着た大柄な男性が、シデンに耳打ちする。この男がイグドラという騎士だろう。
大柄で生真面目な顔をしていて、いかにも武人といった風情だ。仲間内だからか、皇子相手にも敬語を使わずに友人のような口調で話す。
バルザードが黒耀の翼の前に立ちふさがった。
「失礼。貴殿らは黒耀の翼の方々だとお見受けする。皇太子なのか冒険者なのか、どちらの立場でこの国へお越しか?」
普段から、誰に対しても堂々としているバルザードとしては最大限の丁寧さだ。
「お前はバルザードだな。アリシア姫の護衛として、以前我が国に来たのを覚えているぞ」
皇太子シデンは、自国を訪れた時のバルザードの顔を覚えていた。
バルザードも、さすがは元Sランク冒険者といったところだ。周辺国にも顔と名前が轟いている。
「今回は冒険者としてだ。我が国の国境付近を荒らしている魔物がこちらに流れてきている。そいつを始末したいのだ」
シデンが淡々とした様子で答えた。
「……若、目的はそれだけでは無いですぞ。隣国で新たに大規模な都市を建設しているのが気になっておるのじゃ。その視察も兼ねてじゃよ」
魔法使いの老人が話を遮った。
この男が宮廷魔導士のゼーベマン伯爵だろう。
シデンの胸辺りほどの身長しかなく、頭の髪の毛も寂しくなっている。焦げ茶色のローブをまとって杖を握っており、いかにも魔法使いといった様子だ。
「それは
性格的に、皇子の方は冒険者気質だが、魔導師の方は政治家気質なのだろうか。
確かに隣国で新たな都市が勝手に開発されていたら、領土の拡大を目論んでいるのではないかと、警戒する気持ちも分かる。
「冒険者としてなら、無闇に入国を拒否できないな。あいにく、ここら辺はまだ建設中だから宿屋も無いんだ。設備が整っているセドナの旧市街の方へ行ってくれよ」
「首都が崩落しただけでなく、ウミアラシまで出現したというではないか。なぜ、こんな場所に遷都する予定なのじゃ?」
ゼーベマンが単刀直入に尋ねてくる。
「そういう政治的なことは、下っ端の俺に分かるわけ無いだろう。もっと偉い奴に聞いてくれよ」
「では、ここの代表者にお会いしたい。取り次いでくれ」
黒耀の翼のゼーベマン伯爵が、バルザードに要求した。
「おいおい、冒険者として来たんじゃ無かったのか。まあ、とりあえず話だけは伝えてやる。とにかく、今は旧市街に行ってくれないか」
少し嫌味も込められたバルザードの返答に納得したのか、黒耀の翼の面々は言われた通りセドナの旧市街の方へ歩いていった。
「あいつらは何しに来たんだ?」
「皇子様は魔物退治が目的のようだぜ。他の連中は違うみたいだがな。奴らが冒険者として魔物を退治してくれるだけなら、有り難いんだがな。戦いの助っ人としては、この上ない戦力だ」
「でも、そんな奴らが街の周りをうろうろするのは少し落ち着かないな。奴らの詳しい情報が知りたいけど」
「それより、あいつらに建設の様子を見せても大丈夫か? 怪しげな魔導具が飛び交っているのを見たらひっくり返るぜ」
ボットを使った街づくりは、この世界の人間には信じられない光景のはずだ。
「コソコソ隠れながら建設する余裕もないしな。まあ、堂々と作ってやろう。どうせ見たところで仕組みは分からないし、真似できるもんじゃないんだから」
バレたところで何もできないはずだと、カズヤは開き直っていた。
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