063話 黒耀の翼


 ウミアラシの力を借りて、土地を大まかに開拓することに成功した。


 次は地盤を固める作業だ。


 建築用のボットたちが働いている。中型のボットは主に地盤や杭打ちをし、小型のボットはブロックの製作を行う。



 材料となる土砂を運んだり、出来上がったブロックを運ぶのは魔導人形の仕事だ。


 魔導人形という名のゴーレムは、もくもくと同じ作業を繰り返すのに適している。魔導人形の動力源も魔石なので、魔石はいくらあっても困らない。



 魔導人形が運んできたブロックを、雇われた人夫たちが積み上げていく。


 もともとはエストラで仕事を失った人たちが中心になっている。セドナの旧市街の住民も働いているので、新たな公共事業のようになってきた。




 仕事としては、ボットによって線が引かれたところに、ブロックを積んでいくだけの簡単な作業だ。


 上に積み上げていくのは少し技術が必要だが、慣れてくれば難しい作業ではない。



 そして、職人ギルドの協力で、建築や家具職人も徐々に連れてきている。


 宇宙船の技術は大規模な作業を行うには向いているが、細かな作業は熟練の職人の方が早くて正確な場合も多い。



 彼らには、建物のなかでも窓やドアの設置など、細かな作業を行ってもらうことになっている。


 なにより、自分たちが住む新しい街を、自分たちの手で作ってもらうことで、愛着を持ってもらえる。



 すでに800人ほどの人夫たちが働いていて、急ピッチで作業が進められていた。


 この辺りの、人への指図や段取りをつけるのはアリシアが上手だった。


 アリシアが王女や魔法使いであるということを脇においたとしても、すぐれた実務家の印象は変わらない。



 ボットと市民が一緒になって作業している様子は壮観だった。


 テキパキと効率的に無言で作業するボットと、ワイワイ言いながら楽しそうにブロックを組み上げている人間たちが対照的だ。




「新しい街はどうだい? 問題なく作れそうかな」


 建設現場を眺めていたカズヤは、作業している市民の一人に話しかけた。



「……ああ、カズヤさんか。新しい街を一から作るって言うから心配してたけど、この調子なら何とかなりそうだよ」


「それは良かった。なにか気になる点はあるかい?」



 現場から声を吸い上げる大切さは、日本の仕事で叩きこまれていた。


「そうだなあ。エストラと同じ配置にするのはいいんだけど、もう少し井戸が多くてもいいんじゃないか。エストラでは水が足りなかったけど、ここならたくさん井戸を掘れる気がするんだが」



 確かにそうだ。


 以前のエストラは地下が空洞だったせいか、井戸が少なくて水不足になることが多かった。セドナなら遠慮なく掘っても問題は無いはずだ。



「そうだな。教えてくれてありがとう、井戸を増やしてみるよ」


 市民との何気ない会話から、得られる知見も多かった。



 


 セドナでの建設を始めてしばらくすると、見るからに只者ではない雰囲気の冒険者たちが新市街を訪れた。


 遠目でその姿を見つけたバルザードは、驚いたような表情を見せると、隣で状況が読み込めずにいるカズヤに耳打ちした。



「おいおい。あいつらは、Sランクパーティーの『黒耀の翼』だぜ!」


「Sランク!? たしかSランクが最高だとか言っていたな。それじゃあ、あいつらが最強の冒険者パーティーなのか?」



「ああ、Sランクは他にもいるが、この辺りでは奴らの右に出る者はいない。個人としても他のメンバーはAランクで、リーダーのシデンはSランクだ。それに驚くなよ……」



 バルザードが珍しく反応を楽しむように、会話の間をあけてカズヤの顔をのぞき込む。


「リーダーのシデンは、隣国タシュバーン皇国の皇太子様だぜ」


「何だって!? 皇太子がSランク冒険者?」



「そうだ、剣士としての実力も相当なものらしい。見た目はあんなふうに冷たそうに見えるが、情に厚くて優秀な皇子だともっぱらの噂だ。ほら、あの真ん中に立ってるのがそうだぜ」


 パーティーの真ん中を堂々と歩いているのが、シデン皇子なのだろう。


 見た目は20代後半といったところだろうか。



 長髪の金髪碧眼で背がスラリと高く、整った顔立ちをしている。男であるカズヤから見てもかなり端正な顔なので、周りの貴族の女性たちは黙っていないだろう。


 身軽に動けそうな、銀色の鎧が胸や肩を覆っている。腰にはいかにも価値がありそうな、立派な剣をさげている。




「なんか知らないが、王族って剣士でも魔法使いでも優秀な人間が生まれやすいんだ。単に徹底した教育のおかげかもしれないけどな」

 

 たしかに、アリシアも優秀な魔法使いだ。


 遺伝のうえに英才教育まであれば、優秀な人物が生まれてもおかしくないのだろうか。




「でも、そんなに偉い奴が気軽に外を出歩いて大丈夫なのか!? あいつらにとって、ここは外国だろう」


知らない男のことながら、王族でありながら不用心過ぎる様子に、カズヤは心配になってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る