062話 鬼ごっこの成果
カズヤが、楽しそうにウミアラシとじゃれ合う様子を見て、アリシアは我が目を疑った。
「カズヤにはテイマーとしての才能もあったのかしら? 見ている光景が信じられないわ」
アリシアが感心した声を漏らす。Sランクモンスターであるウミアラシをテイムした話は、さすがに聞いたことがない。
もちろんカズヤはテイマーの能力なんて持っていないし、ウミアラシをテイムした訳ではない。
ただ単純に、餌付けしていたら仲良くなって懐かれただけだ。楽しいと思っていることがウミアラシにも伝わっているのだ。
もしかしたら、ウミアラシという魔物は大きさや強さから忌避されていただけで、意外と大人しくて人が好きな魔物なのかもしれなかった。
結局、丸2日間にわたって鬼ごっこは行われた。
逃げて、疲れたら一時停止してウミアラシに餌をあげて、そして逃げて……ということを繰り返し、ウミアラシが疲れて眠ったら起きるのを待っていた。
「これなら、倒れた木を処分するのも手伝ってくれるかな?」
すでにアリシアとバルザードは遷都先のセドナの街で作業しており、ステラはウミアラシの餌を探すのに大忙しだった。
3日目には、カズヤは牛馬耕のように、ウミアラシの後ろにトンボのようなものをくっつけた。
すでにウミアラシはカズヤをご主人様のような目で見つめ、大人しく付けられるがままになっている。
追いかけっこを再開すると、ごみ処理のように木が集まってくる。
そのようにしながら3日間鬼ごっこを繰り返していると、セドナの街周囲の地形がかなり拓けてきた。
初めは雑草が生えていた固まった土地も、ウミアラシの大きな足と爪によって耕され、焦げ茶色の土が現れて柔らかそうな土地が出来上がっていた。
その名の通り、普段は海を荒らす魔物かもしれないが、今回はいい具合に陸地を荒らしてくれた。
こうして、カズヤとウミアラシのはたらきによって、立派に拓けた平地が出来上がった。都市を拡大するには十分な広さだった。
「お前のおかげですっかり開拓できたよ。ありがとな」
最後はウミアラシを海へ連れて行って別れるだけだ。しかし、カズヤは、自分にすっかり懐いたウミアラシと別れるのは寂しかった。
「なあ、こいつを飼うことはできないかな。街の守り神になると思うんだが」
「マスター、残念ですが不可能です。陸地にはカメさんの餌がほとんどありません。3日分の餌を集めるだけでも大変な作業でした」
珍しくステラが不平を口にした。
巨大なウミアラシの食事を集めるのは、想像以上に大変な作業だったのだ。
「そうだよな……。お前も海に戻りたいもんな」
そう言うと、ウミアラシはギャアと鳴き声を上げ、ドスドスと大きな足音を鳴らしながら海の方へ歩いて行った。
「たまには街のことを見回りに来てくれよな!」
大声でカズヤが叫ぶと、ウミアラシは立ち止まってこちらを向き、もう一度ギャアを鳴いた。
カズヤには、その鳴き声が「分かった」と言っているような気がした。
こうして、かつてのペットを思い出しながら、カズヤは泣く泣くウミアラシと別れる。
カズヤとステラは寂しそうな顔でウミアラシの姿を見送った。
「いったい私たちは何を見させられているのかしら……」
「相変わらず、信じられないことをする奴らですぜ」
アリシアとバルザードは、目の前で起きていることを受け入れられずに、ただ呆然と眺めていた。
思いがけない侵入者もいたが、街づくりは順調に滑りだしていた。
「アリシア、魔石の商売はどうなんだ?」
「順調よ。質が良くて大きな魔石が格安で手に入るから、国外へもどんどん売れているの。国内の需要も満たしてくれるし絶好調よ」
リサイクルした魔石を売却する商売も順調のようだ。首都を移転する大事業には、お金はたくさんあった方がいい。
先日のゴンドアナ王国との戦いで捕らえた捕虜たちは、食料や物資と交換することでゴンドアナ王国と交渉できている。
エルトベルクが対価として食糧や物資を求めたことが、首都の崩落がそれほどの被害だということを印象づけてしまったかもしれない。
しかし、ゴンドアナ王国にとっては安い取引だ。
まずは1000人の捕虜を釈放する代わりに、大量の食料と物資と交換することができた。
セドナの隣の「新市街」と名付けた場所には、エストラとほぼ同じ図面で街造りをする予定だった。
エストラの街の配置は、ステラと衛星が集めてくれたデータを利用する。それをこの場所に再現するのだ。
「面白いなあ! 本当に街ができあがっていくよ」
カズヤは建設現場を眺めながら、思わず本音をもらした。
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