060話 決着


 翌日の夜、カズヤたちはこの日に限って夜間の攻撃をやめていた。



 そのためゴンドアナ軍は久しぶりの静かな夜を過ごしていた。


 しかし、そのときステラは完成した薬を風上から敵陣へと流していた。撒かれたことにも気付かないような無味無臭の薬品だ。




 翌朝、すぐにステラの作戦が功を奏したことが判明した。ゴンドアナ軍のほとんどの兵士が起き上がることができなかったのだ。


 薬の中身は何てことはない、ただの強力な催眠ガスだった。 



 しかし、ステラが想定していたように、ゴンドアナ軍には思った以上に効果があった。


 カズヤとステラが、7日間昼夜を問わずに攻撃し続けていたことで、兵士たちの疲労はピークに達していた。



 そして、襲撃がない久しぶりの静かな夜に、ゆっくりと眠り込んでしまった。


 そこに流し込まれた催眠ガスに、すっかり起き上がれなくなってしまったのだ。

 


「いまがチャンスだ!」


 相手が起き上がれないところに、カズヤたちが一斉に攻め込むと、ついに相手の戦線が崩壊した。


 ゴンドアナ軍の2000人の兵士はなんとか身体を動かして逃走したが、残った約5000人の兵士は身動きが取れずに地面に横たわっていた。



「敗走した兵士を逃がしては駄目です。ここで減らさないと再びすぐに攻め込んできます」


 ステラの助言を受けて、カズヤたちは国境近くまで追走する。


 ゴンドアナ軍を完全に退却させるまでに、更に600人の兵士を減らしたのだった。




「こんなに強力な催眠ガスは聞いたことが無いぜ! うちの兵士も間違って吸い込んで、寝てる奴がいたくらいだ」


 バルザードは勝利を確信して笑い飛ばした。



 しかし、戦果に満足しながらも、忠告を忘れなかった。


「ただ、今回はたまたま条件が揃っただけだからな。一度見せた戦法は対策されるから、同じ効果は期待できないぜ」



 エルトベルクの兵士たち全員で相手を縛り上げる。結果として、無力化された5000人の捕虜が出来上がった。


 今回のゴンドアナ王国との戦いは、なんとかエルトベルクの勝利で終えることができたのだった。




「捕らえた兵士たちを、どうやって管理しようかしら? 捕虜にするにしても、いきなり5000人を収容する建物は無いわよ」


 アリシアの頭は戦後処理に切り替わっている。



「それこそボットを使って建物を作ればいい。街を作るのにちょうどいい練習になるよ。以前に話したブロック建築を試してみよう。ステラ、どのくらい掛かりそうだ?」



「5台全ての建設ボットを動員すれば、3日で作れます」


 5000人収容とはいえ建物は一つだけだ。建設している間は、兵士たちに捕虜を見張っていてもらえばいい。



 すぐに、ベルージュの街の隣に広い土地を確保すると、ボットたちの地盤整備の作業が始まった。


 周囲の土砂と樹木をボットたちに投げ入れると、ものすごいスピードで成形したブロックを吐き出してくる。それを残りのボット達が積み上げる。



 ひろったブロックを最短距離で移動し、正確に積み上げていく。まるで工場のようなスムーズな流れ作業だ。それに、単純にブロックを積み上げるような作業なら人間でもできる。


 余っていた兵士たちにも手伝ってもらいながら作業すると、ステラが言ったように、たった3日で巨大な収容所が完成した。



「この人達を交渉の材料にしよう。貴重な食料に変わってくれると助かるんだけど」


 大事な捕虜を返す代わりに、遷都に必要な食料や物資を手に入れるチャンスだ。貴重な人材との交換だから、要求する基準さえ間違えなければ取り引きに応じてくれるはずだ。



 予想外のところで、遷都の物資を集める算段がついてきたのだった。





 カズヤたちはゴンドアナ王国の侵略を、一旦は退けることができた。だが、遷都先のセドナ周辺を、まだ詳しく調べていないのが気にかかっていた。



「遷都先のセドナという街の周辺を見ておきたいんだけど」


「ウィーバーで向かえばあっという間です。先に見ておきますか?」



 アリシアとバルザードも含めて、四人はウィーバーに乗って遷都先のセドナに向かった。


 すぐにセドナ周辺へとたどりついたが、その道中でセドナの方角から必死で逃げ出してくる住人たちと出会った。



「おい、どうしたんだ!?」


「セドナの近くに巨大な化け物が現れたんです!」



「巨大な化け物!? ステラ、何がいるか分かるか」


「……海側の方に、とんでもなく大きな生き物がいますね。高さ50mはある巨大な魔物です」


 衛星の映像を確認したステラが、唖然とした表情で報告する。



 カズヤたちにも分かるようにホログラムで映し出すと、亀を大きくしたような桁外れに大きな魔物が悠然と歩いていた。


「こいつはウミアラシだぜ! とんでもない奴が出てきちまったな」


「ウミアラシ!?」



「ふだんは海に棲息している魔物だが、時々陸地にも上がってくるんだよ。ひょっとしたらエストラの崩落の振動が、奴を刺激してしまったのかもしれないな。


 あいつはSランクモンスターだから、倒そうなんて考える奴はいない。出会っちまったら運が悪いと思って逃げるしかないぜ」



 ホログラムを見たバルザードが教えてくれる。当然のように、魔物のことはバルザードが一番くわしい。


「とにかく近付いてみよう! セドナの街が襲われることだけは避けなくちゃ」



 カズヤたちは急いでセドナへ向かった。

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