059話 奇襲


 カズヤたちの到着から一日遅れて、他の兵士たちも到着した。


「これが魔導人形か……」


 カズヤは初めて見る魔導人形たちの戦闘を眺めていた。



 エルトベルクが持つ魔導人形は、単純に突撃して相手の数を減らす、それだけのロボットだった。


 相手の方が数多く使っているので、魔導人形だけの戦闘だと劣勢になることが多い。



 急な出陣だったので、今日到着したエルトベルク軍は1000人程度しかいない。


 相手の部隊も徐々にそろいつつあり、すでに5000人程度に膨れ上がっていた。何も考えずに戦うと兵力差で負けてしまう。



 この人数差をうめられるかどうかは、カズヤとステラ次第だ。通常の攻撃ではほとんどダメージを受けないカズヤが、どれだけ突っ込んで相手の数を減らせるか。



 ステラは200機近いF.A.と砲台をコントロールすることに専念する。


 味方が劣勢なところをボットたちが瞬時に補佐し、敵の弱いところを攻撃する、流動的な戦場においてステラの臨機応変さが求められた。



「光線の攻撃を効果的にするために、まずは魔法障壁が使える魔法使いをやっつけよう。ステラ、奴らの居場所を教えてくれ」


 カズヤはブラスターを剣に切り替えて、魔法使いの数を減らしに行くのだった。





 3日目には両軍の全ての部隊がそろった。


 それまでにかなりの数を減らしたつもりだったが、ゴンドアナ王国には7000人の兵士が残っていた。エルトベルク3500人の部隊とにらみあう。



 ここから、切れ目のない総力戦が始まった。


 カズヤとステラは昼夜を問わず、ゴンドアナ軍を攻撃する。昼間は騎士団や兵士と共に行動する。



 夜は暗くなると、戦闘を中止したゴンドアナ軍の上空から、空中砲台とF.A.と共に暗闇から一晩中攻撃し続ける。


 相手は落ち着いて寝ることもできないので、次の日の昼間の攻撃にも影響した。



 しかし、兵力差と物量の前には、二人だけの頑張りでもどうしても限界があった。夜の間に押し込んだ以上の距離を、昼の間に取り返された。


 そして、毎晩夜襲があることに気付いたゴンドアナ軍は、夜を当番制にして反撃し、昼間は人数差にまかせて攻め立ててきた。




 一進一退の攻防が数日続くと、疲れを知らないカズヤでも、心の疲労が少しずつ蓄積していった。


 自分が殺人マシーンになったのではないかと感じると、カズヤは落ち込んだ。そして、仲間に激励されるたびに、たちなおって攻撃を続けるのだ。



 それでも、後方からはゴンドアナ本国から来た多くの兵士が増員されていく。


 当初見積もっていた8000人よりも、更に多くの兵士が投入されていた。




「F.A.が3機撃墜されました。そのうち2機は残骸を回収しましたが、1機は回収できていません」


 F.A.を分解しても、どんな仕組みか分からないので、敵の手に渡っても大丈夫だとは思う。しかし、作り直しがきかない戦力であるF.A.を破壊されてしまったのは痛かった。



「ステラ、相手の人数はどのくらいになった?」


「6800人ほど残っています。エルトベルクは3000人にまで減っています」



 単純に考えれば無謀な戦いだった。


 しかし、アビスネビュラと戦うというのはこういうことなのだ。この世界の支配者から逃れるには、このような戦いに勝利し続けなければいけないのだ。



 カズヤは昼も夜も戦い続けたのだった。




 *


「いくら身体が疲れないとはいえ、さすがに気持ちがもたないよ。休憩したいな」


 戦闘が始まって7日目には、さすがのカズヤも悲鳴をあげた。


 戦い方を考えないと、このまま消耗戦が続いて負けてしまいそうだ。



「できれば、単に奴らを追い返すだけじゃなくて、しばらく攻撃できないくらい叩きのめしたいところなんだ。そうしないと、今後の遷都中に何度も攻められてしまう。奴らに甚大な被害を与えなくちゃ意味がないんだ」



「戦い方を大きく変えないといけないわね。何かいい考えはある?」


 アリシアの問いかけに、カズヤが頭を抱える。


「マスター、こんな手段はどうですか?」



 ステラが提案してきた内容は、あまり効果が出るとは思えない作戦だった。


 地球でも聞いたことがあった戦法だし、そんなに簡単に狙い通り進むとは思えなかった。



「そんな単純な方法で、効果あるかな?」


「普段ならうまくいきませんが、私たちが昼夜休みなく攻め続けていることを利用できます。おそらく想像以上の効果があるはずです」



「それなら、やってみようか。準備にどのくらい時間がかかる?」


「ボットを操作しながら私が準備するので、丸一日は必要です」


「よし、その間は最後の力を振り絞って踏ん張ろう」




 カズヤは気力をふるいおこした。ステラの準備が整うまでの辛抱だった

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