058話 先制攻撃
「ウィーバーを使うなら、私も一緒に行くわ」
アリシアが、カズヤを呼び止めた。
「えっ!? 護衛の兵士たちを置いていって大丈夫なのか?」
出撃に積極的なアリシアに不安になる。今までと違って戦場なので、何が起こるか分からない。
「敵の様子を見るだけだから、とりあえずバルくんがいればいいわ。前からウィーバーに乗ってみたかったし」
「姫さんが行くなら俺様も行かないとな……。でも、ウィーバーって奴は苦手なんだよなあ」
呼び寄せた2台のウィーバーを見て、バルザードが珍しく弱音をはく。
残りの部隊にてきぱき指示を出すと、アリシアはカズヤの後ろに乗り込んだ。
「……そういう席順になるのですか」
ステラが若干不服そうな顔を見せる。
「ん、ステラとバルが乗ればいいだろう?」
「バルちゃんと乗るのは嬉しいんですけど……」
それ以上は何も言わずに、黙ってウィーバーに乗りこんだ。
*
エストラからベルージュの街までは、徒歩で1日はかかる距離だ。だが、ウィーバーを使うとあっという間だ。
現地に到着すると、すぐに固定式の砲台を”上空に”設置する。
「こいつのエネルギーはどのくらい持つんだ?」
「可動し続けると、たった1年くらいしかもちません。使い方には十分注意してください」
「そ、そうか。短いな……」
毎日使って、弾丸の補充無しに1年ももつのなら十分だと思うが、ザイノイドの感覚だと足りないのだろうか。
いずれは他の武器に変えなければいけないが、さしあたっては大丈夫そうだ。
「おお、見えてきたな! 先遣隊だから少ないな」
「1000人ほどの部隊ですね」
遠くの山の方に、ゴンドアナ軍の先遣隊が到着したのが見えた。すぐさまステラが人数を教えてくれる。
「砲台まで引き付けてもいいけど、バルザードとの特訓の成果を試してみたい。不意打ちで相手の数を減らしてくるよ」
「心配ですので私も同乗します。
「カズヤ、いきなり敵陣に突っ込んでも大丈夫なの?」
「危なくなったらすぐに離脱するよ。本番前の肩慣らしだ」
カズヤはF.A.を従えて、先遣隊の横から突撃を開始した。
カズヤのブラスター攻撃は効果的だった。一般の兵士の魔法防御が高いことはほとんどない。
ゴンドアナ軍は宣戦布告と同時に進撃したつもりだったが、いきなり反撃されて驚いているようだった。
「バルくん、私達も出撃しましょうよ。今のうちに独自魔法を試しておきたいの」
「姫さんと二人だけですか!? ちょっと危な過ぎると思いますが……」
「魔法だから遠くから攻撃できるし、危なくなったらウィーバーで離脱すれば大丈夫よ」
「運転するのは俺ですよね。敵に近付くのだけは勘弁して下さいよ」
バルザードの怪しげな運転で、相手の姿が見える位置まで飛んでいく。こちらの姿が見つかると、敵から魔法や弓矢が飛んできた。
「アビスネビュラに反抗することを決めたから、もう遠慮はしたくないの。前から試してみたかった独自魔法よ」
アリシアは短く詠唱すると杖を構えた。
「
アリシアの杖から、爆炎と暴風が同時に放たれる。
その2つが合わさって炎の竜巻となると、相手の部隊を呑み込んでいった。ゴンドアナ軍に襲いかかった炎は、まるで龍のように地面を這い回り、さらに被害を拡大させていく。
「姫さん、そんな魔法は今まで見たことがないですよ!」
「魔術ギルドが教えない魔法なんだけどね。それにしても、こんなにすごい威力だとは思わなかったわ」
放ったアリシアもその威力に驚いていた。
「アリシアの攻撃と合わせて、200人程度を戦闘不能に追い込みました。初日の出来としては十分です」
戦闘を終えて引き上げてくると、ステラが戦果を報告してくれる。
「アリシアの魔法は驚異的だったな。独自の魔法を使えるなんてすごいよ」
「そうかしら。だって生活魔法は魔術ギルドの紋様無しでも使えるのよ。戦闘魔法だけ使えないなんておかしいでしょ?」
なるほど、言われてみればその通りだ。
「だけど、その当たり前に気が付いて新たな魔法を作り出せるのは、やっぱり普通じゃないよ」
平凡人間を自称していたカズヤは、ただただ感心していた。
初日の様子見で、思ったよりも敵の戦力を削ることができた。問題は明日以降だ。兵力差にまかせて突撃されると、こちらの苦戦は必至だ。
「ステラ、俺たちは休憩する必要が無いんだ。夜のうちに相手の数を減らしておこう」
「身体は大丈夫でも心は疲労します。大丈夫ですか?」
「まだ始まったばかりだから大丈夫だ。敵兵を少しでも減らしておきたい。アリシアたちは下がって休んでいてくれ」
カズヤとステラは再びウィーバーに乗り込むと、暗くなり始めた敵陣へと乗り込んでいった。
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