058話 先制攻撃


「ウィーバーを使うなら、私も一緒に行くわ」


 アリシアが、カズヤを呼び止めた。



「えっ!? 護衛の兵士たちを置いていって大丈夫なのか?」


 出撃に積極的なアリシアに不安になる。今までと違って戦場なので、何が起こるか分からない。



「敵の様子を見るだけだから、とりあえずバルくんがいればいいわ。前からウィーバーに乗ってみたかったし」


「姫さんが行くなら俺様も行かないとな……。でも、ウィーバーって奴は苦手なんだよなあ」



 呼び寄せた2台のウィーバーを見て、バルザードが珍しく弱音をはく。


 残りの部隊にてきぱき指示を出すと、アリシアはカズヤの後ろに乗り込んだ。



「……そういう席順になるのですか」


 ステラが若干不服そうな顔を見せる。


「ん、ステラとバルが乗ればいいだろう?」


「バルちゃんと乗るのは嬉しいんですけど……」


 それ以上は何も言わずに、黙ってウィーバーに乗りこんだ。





 エストラからベルージュの街までは、徒歩で1日はかかる距離だ。だが、ウィーバーを使うとあっという間だ。


 現地に到着すると、すぐに固定式の砲台を”上空に”設置する。



「こいつのエネルギーはどのくらい持つんだ?」


「可動し続けると、たった1年くらいしかもちません。使い方には十分注意してください」


「そ、そうか。短いな……」



 毎日使って、弾丸の補充無しに1年ももつのなら十分だと思うが、ザイノイドの感覚だと足りないのだろうか。


 いずれは他の武器に変えなければいけないが、さしあたっては大丈夫そうだ。



「おお、見えてきたな! 先遣隊だから少ないな」


「1000人ほどの部隊ですね」


 遠くの山の方に、ゴンドアナ軍の先遣隊が到着したのが見えた。すぐさまステラが人数を教えてくれる。



「砲台まで引き付けてもいいけど、バルザードとの特訓の成果を試してみたい。不意打ちで相手の数を減らしてくるよ」


「心配ですので私も同乗します。F.A.フライトアングラーも10機ほど随伴させましょう」



「カズヤ、いきなり敵陣に突っ込んでも大丈夫なの?」


「危なくなったらすぐに離脱するよ。本番前の肩慣らしだ」


 カズヤはF.A.を従えて、先遣隊の横から突撃を開始した。




 カズヤのブラスター攻撃は効果的だった。一般の兵士の魔法防御が高いことはほとんどない。


 ゴンドアナ軍は宣戦布告と同時に進撃したつもりだったが、いきなり反撃されて驚いているようだった。



「バルくん、私達も出撃しましょうよ。今のうちに独自魔法を試しておきたいの」


「姫さんと二人だけですか!? ちょっと危な過ぎると思いますが……」



「魔法だから遠くから攻撃できるし、危なくなったらウィーバーで離脱すれば大丈夫よ」


「運転するのは俺ですよね。敵に近付くのだけは勘弁して下さいよ」



 バルザードの怪しげな運転で、相手の姿が見える位置まで飛んでいく。こちらの姿が見つかると、敵から魔法や弓矢が飛んできた。


「アビスネビュラに反抗することを決めたから、もう遠慮はしたくないの。前から試してみたかった独自魔法よ」


 アリシアは短く詠唱すると杖を構えた。



フレイム・インフェルノ疾風業炎舞!!」



 アリシアの杖から、爆炎と暴風が同時に放たれる。


 その2つが合わさって炎の竜巻となると、相手の部隊を呑み込んでいった。ゴンドアナ軍に襲いかかった炎は、まるで龍のように地面を這い回り、さらに被害を拡大させていく。



「姫さん、そんな魔法は今まで見たことがないですよ!」


「魔術ギルドが教えない魔法なんだけどね。それにしても、こんなにすごい威力だとは思わなかったわ」


 放ったアリシアもその威力に驚いていた。





「アリシアの攻撃と合わせて、200人程度を戦闘不能に追い込みました。初日の出来としては十分です」


 戦闘を終えて引き上げてくると、ステラが戦果を報告してくれる。



「アリシアの魔法は驚異的だったな。独自の魔法を使えるなんてすごいよ」


「そうかしら。だって生活魔法は魔術ギルドの紋様無しでも使えるのよ。戦闘魔法だけ使えないなんておかしいでしょ?」



 なるほど、言われてみればその通りだ。


「だけど、その当たり前に気が付いて新たな魔法を作り出せるのは、やっぱり普通じゃないよ」


 平凡人間を自称していたカズヤは、ただただ感心していた。




 初日の様子見で、思ったよりも敵の戦力を削ることができた。問題は明日以降だ。兵力差にまかせて突撃されると、こちらの苦戦は必至だ。



「ステラ、俺たちは休憩する必要が無いんだ。夜のうちに相手の数を減らしておこう」


「身体は大丈夫でも心は疲労します。大丈夫ですか?」


「まだ始まったばかりだから大丈夫だ。敵兵を少しでも減らしておきたい。アリシアたちは下がって休んでいてくれ」



 カズヤとステラは再びウィーバーに乗り込むと、暗くなり始めた敵陣へと乗り込んでいった。

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