057話 魔導人形
それにしても、ステラはこれほどまでに詳細な情報を手に入れていたのか。
これだけの情報を事前に教えてもらっていたら、もっと対策を練る時間があったかもしれない。
「ステラ、もし重要な情報が分かったら、もっと早くに教えてもらいたいんだけど……」
「教えることは可能なんですけど、そんなに沢山の情報をマスターに伝えても大丈夫ですか? いま現在も、エルトベルク近辺では怪しげな工作がたくさん行なわれています。全部教えて、マスターの頭がパンクしないか心配ですけど」
たしかに、何百ものボットからの情報を全て処理できているのは、ステラが情報処理型のザイノイドだからだ。
それが有益な情報かどうかを判断する為には、膨大な情報を判別しなければいけない。
ゴンドアナ王国での村の襲撃を知っていても、戦争の口実に使うのでなければ知らなくて良い情報だ。
エルトベルクに関係していることが分かったから教えてくれた。
軍の編成をしていても、国境の警備であれば知る必要はない。エルトベルクの国境を越えてきたから教えてくれたのだ。
記憶力や判断力が人間のままであるカズヤは、一度に一つのことしか考えられない。ステラが持つ情報量は、カズヤの頭ではとても処理できないだろう。
「ごめん、確かに無理だわ。必要そうな情報を厳選して教えてくれ」
「もし、処理したいのであれば、マスターの……」
「脳みそをザイノイド化しろと言うんだろう。生物部分が少しでも残っていることが、俺の心の支えなんだ。自分から変えることは無いと思うよ」
「了解しました」
ステラの報告を聞いたアリシアは、状況を理解するとすぐに頭を切り替えた。
「とにかく進軍を防ぐしかないわね。すぐに騎士団と兵士を編成しないと」
「アリシア、エルトベルクが防衛に出せる兵力はどのくらいなんだ」
「エストラ市内や他の都市にも必要だから、今すぐ用意したら3500人程度だと思う。それに魔導人形は200体ほど連れて行けるわ」
「魔導人形?」
カズヤは初めて聞いた言葉だった。
「あら、知らなかったかしら。土魔法が得意な魔法使いが作り出す、木や泥の人形よ。粗悪なものはゴーレムと呼んだりもするわ。エルトベルクには優秀な魔導人形も多いのよ」
ゴーレムと言われれば想像がつく。
しかし、魔法を使ったゴーレムとはいえ、この世界でも自律型ロボットを作れることにカズヤは少なからず驚いた。
「そのゴーレムには、どんなことができるんだ?」
「普通の魔導人形だと、土魔法使いに指示された攻撃と防御くらいしかできないわ。突撃するか一定ラインを越えた敵への迎撃くらいね。なかには魔法を使える魔導人形もいるけど……」
「ゴーレムなのに魔法がつかえるのか!」
魔法の使い方としてカズヤに最後の希望が出てきた。魔導人形でも使えるなら、ザイノイドが使えてもおかしくないのではないか。
「でも、魔導人形の身体のなかに魔石を埋め込むのよ。魔法を込めた制御も必要だから、カズヤにはできないんじゃないかしら」
魔法を使えるのでは、という最後の希望も無くなってしまった。
ザイノイドの身体のなかに魔石を埋め込むことなど不可能だ。そんな隙間はどこにもない。それに、魔石からどうやって魔法を引っ張り出すのかも分からない。
カズヤは、この世界で魔法を使うことをきっぱりと諦めることにした。
「……他にはどんな部隊があるんだ?」
「3500人の内、対人戦に特化した騎士は300人くらいよ。それと攻撃魔法を使えるのが500人くらい。魔物を扱えるのが20人くらいいたかしら」
「魔物を扱えるって、どういうことだ?」
「魔物と仲良くなって指示を出せる才能を持っている人が稀にいるのよ。テイマーと呼んでいるわ。魔物たちを従えて一緒に戦うの。そんなにすごい魔物を操れる訳ではないけどね」
テイマーという職業は、元の世界のゲームで聞いたことがあった。だが、この世界にそんな能力をもった人間がいるのは初耳だった。
そのテイマーを利用すれば、先日のようにルムガドラやボーグの群れを使ってアリシアを襲うことも可能だったに違いない。
「とりあえず、進軍先に砲台を設置しよう。はじめに防衛ラインを決めておかないと」
ゴンドアナ王国は、こちらの4倍近い圧倒的な兵力だ。兵数と物量の差で押し切る考えだろう。
「国境沿いの街は、今から救援に向かっても間に合わないわ。国境から2番目の街、ベルージュの手前に防衛線を引くのが精一杯ね」
「よし、すぐにでかけよう。俺たちだけでもウィーバーを使って先に行こう」
部隊には後から付いてきてもらえばいい。
ボットたちを使って少しでも進軍を止めないと、途中にある街を占領されてしまう。
「ちょっと待って。ウィーバーを使うなら、私も一緒に行きたいわ!」
アリシアが、カズヤを呼び止めた。
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