056話 ゴンドアナ軍の侵攻
「マスター、北方にあるゴンドアナ王国の兵士が、国境を越えてエルトベルクに侵入してきました。このまま放置すれば2日後にはエストラに到達します」
テセウスを捕えてから10日後、ステラがカズヤに大きな異変を報告した。
カズヤは、国王とアリシアにも急いで伝える。
「急にやってきたな。でも、ゴンドアナ王国はメドリカ王国と交戦中だったはずじゃないのか?」
「ゴンドアナ王国とメドリカ王国は、すでに2日前に停戦しています。衛星からの情報によると、戦闘地域からすでに両部隊が撤退しています」
カズヤの疑問に、ステラがすぐさま答えてくれる。
以前打ち上げていた衛星が、ここでも役に立った。そんな唐突な情報にも、アリシアは取り乱した様子は見せなかった。
「もともと怪しいとは思っていたけど、ゴンドアナ王国も裏でアビスネビュラに操られているのね」
「アリシア、国どうしの位置関係を教えてもらってもいいか?」
地図を広げながらアリシアが説明してくれる。
「私たちエルトベルクは3つの国と国境を接しているの。北側がゴンドアナ王国で東側がタシュバーン皇国。そして西側にメドリカ王国があるわ」
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今回はエルトベルクの北に位置する、ゴンドアナ王国が南下して攻めてきたということか。
集まって話し合っていると、ゴンドアナ王国の使者がエストラを訪れたという報告があった。
使者と国王との会見が終わると、アリシアやカズヤたちは国王に呼ばれた。
「わざわざゴンドアナ王国が宣戦布告してきたのだ。すでに軍隊が国境を越えているというのに、恥知らずなことだ」
国王はあきれた様子で嘆息した。
「しかし、お父様。今さらゴンドアナ王国が宣戦布告する理由はあるのですか?」
「今回の出兵に対して自国民を納得させるためだろう。国境付近にある村が、エルトベルク軍に襲われたと難癖をつけてきおった。襲撃された村にエルトベルク軍の武器や防具が落ちていたらしい。言いがかりも甚だしい。我が国はそれどころでは無いというのに……」
「ステラ、本当にそんな事件が起きていたのか?」
「たしかに3日前に襲撃された村がありますが、攻め込んだのは自分たちゴンドアナ軍です。自国の兵士にエルトベルクの装備を持たせて、これ見よがしに落としていっただけです。いつものように自作自演して、国民の不満を煽って目線をそらしたいだけです」
自分たちに都合がいい事件を自ら起こす。そしてその騒動を利用する。
この世界に来てから何度も経験している政治手法だ。カズヤはテセウスの件で、すでにお腹いっぱいだった。
「それで、奴らの兵力は?」
「現時点で確認できるのが7834人です。今後増える可能性もあります」
「約8000人か……、多いな」
カズヤは多数の兵士がぶつかり合う、集団での戦闘は初めてだ。
「宇宙船のなかに、集団戦で役に立つ武器ってあるのか?」
「調査用の宇宙船なので兵器はほとんど載せていません。拠点を作った時の防衛用の固定式砲台が3機、移動式の砲台が2機あるだけです」
「その砲台というのは人間に攻撃することは出来るのか?」
「もちろんです。人間への攻撃が制限されているのはザイノイドだけです」
それなら戦力になりそうだ。それにしても……、
「ということは、俺はどんな扱いになるんだ? ザイノイドになったから、もう人間は殺せないということか?」
「いいえ、マスターのように元が人間種の場合は別です。ザイノイド化したら人間の命令に従うような決まりはありません」
それはそうか。ステラのように、最初から全て機械で作られたザイノイドに対して厳しい制約があるのだ。
人間が何かの理由でザイノイド化しただけで、他の人間の命令に従わなければいけなくなることはない。
「それなら空中戦に使えるのは2機だけということか……」
「いえ、5機とも使えますけど」
「ん、どういうことだ? 固定式と移動式があるんだろう。違いは何なんだ」
「固定式は自律して移動することはできますが、敵の攻撃を回避する能力がありません。移動式の空中砲台は、敵の攻撃を回避しながら攻撃することが可能です。ですから、固定式砲台を"
「そ、そうか、移動できても回避できなければ固定式と呼ぶんだな……」
砲台を「空中に固定する」という概念が、既に理解できない。
科学力が違い過ぎると、もはや言葉の使い方も違うようだ。
回避できなくても自律して移動できるのなら、移動式と呼んでも良さそうな気がするのだが。
「それなら、すぐに砲台を全部呼び寄せてくれるか。それと、
「分かりました、すぐに呼び寄せます」
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