055話 魔石ビジネス
「そうだ、ステラ。前にお願いしていた魔石は売却できたのか?」
カズヤは魔泉を訪れた時に思いついたアイディアを、ステラに伝えていた。
あれからステラが試行錯誤してくれたお陰で、ついに商品が現実化できていたのだ。
「大丈夫です。エストラの店で売却しましたが、問題なく使えるということです。むしろ品質が良いと喜んでくれました」
「よし、それなら大成功だな。大量生産すれば移住資金の足しになるだろう」
「いいんですか? この世界への影響はかなり大きいですけど」
「量はいつでもこちらでコントロール出来るから、大丈夫じゃないかな」
「……二人とも、いったい何の話をしているの?」
やり取りを聞いていたアリシアが、いぶかし気な顔をして割り込んできた。
「実現できるか分からなかったから内緒で実験してたんだ。どうやら無事に完成したらしい」
「ステラが何を作ったの?」
「魔石をリサイクルするんだよ」
「りさいくる?」
初めて聞いた言葉に、アリシアの頭が疑問符でいっぱいになる。
この世界にはリサイクルという概念が無いのだろうか。
豊かでない国では、リサイクルは生活の基本だろう。魔石のリサイクルは存在していなくても、他の生活用品でリサイクルする物はあるはずなのだが。
「リサイクルっていうのは、使われなくなった物をもう一度使えるようにすることなんだ。例えば使えなくなった服を布切れにしたり、他の小道具を作ったりするだろ。同じように、魔石に魔力を込めて、もう一度使えるようにするんだよ」
「えっ!? どうやったら魔石でそんなことができるの?」
「俺たちを案内してくれた魔泉があるだろ。あそこで空っぽの魔石に魔力を込めるんだよ。そうすれば、今まで山のように捨てられていたゴミが、また新たな価値を持つんだ」
魔泉の魔力を魔石に流し込むのは、かなり精細で難しい作業だったらしい。
最終的に、宇宙船の中でも2台しか備え付けられてない、貴重な医療用ボットを使うことで解決した。
微量の薬剤やガスを体内に投与するための医療用ボットをつかって、魔石の中に魔力を流し込むことに成功したのだ。
「そんなことが出来るなんて……。捨ててあった魔石がもう一度使えるなんて。それってとんでもない発明じゃないかしら?」
確かに、この世界では画期的なエネルギー革命に匹敵する発明だろう。
ただし、冒険者の生活のためにも、魔物から取った魔石の価値が落ちないように量をコントロールする必要がある。それに、貴重なボット2台でしか作れないので、生産量にも限界があった。
だから、小さな魔石を大量生産するよりも、中型から大型の魔石を作った方が価値が出るはずだった。大きな魔石を持っている魔物の希少性も高い。
「それで、アリシア。リサイクルした魔石を売却するような、大きな取り引きがしたいんだ。この国で一番大きな商人を紹介してもらえるか?」
「そうね。それが実現したら、かなり大きな取り引きになるわね……」
アリシアはどの商人を紹介しようか悩んでいるのか。宙の一点を見つめたまま、顎に手を当てて考えている。
「……その取引、私がやったらダメかしら?」
「えっ、アリシアが!?」
「それだけ大きな事業を商業ギルドに任せるのは不安だわ。どこまで信頼出来るか分からないし、お金儲けだけを優先されたら困るから」
魔石のリサイクルを商売にするのに商人を紹介してもらうつもりだったが、アリシアから意外な申し出を受けた。
確かに、これは国家事業として行うようなレベルの話なのかもしれない。
首都を移転する時だって、計算高い商業ギルドは協力することすら表明していない。アリシアなら信頼出来るし、ロイヤルブランドの信用は大きい。
最初の取り引きはアリシア本人が顔を出さなければいけないが、その後はアリシア直属の部下が取り引きを続けたっていい。
「もちろん問題ないよ。この件はアリシアに任せる」
神妙な顔をして聞いていたアリシアの顔が、パッと華やいだ。
まずは中型から大型の空っぽの魔石をたくさん集めてもららった。
エストラの屋台の隅に山ほど捨てられていたように、空っぽの魔石はただの廃棄物なのであっという間に集まった。ひどい時は、その辺の道端に捨ててある魔石もあった。
そして、一般の人がめったに使わないような魔泉をセドナ周辺で探し、そこで半自動的に魔石を生産し続ける。
できあがった魔石を販売すれば、移住への足しにはなるだろう。
昼夜休まず作り続けるボットたちのお陰で、価値が高い魔石が莫大な価格で取り引きされていく。
遷都を前にして、貴重な資産が少しずつ築きあげられていった。
※
「マスター、緊急の報告があります! 北方にあるゴンドアナ王国の兵士が、国境を越えてエルトベルクに侵入してきました。このまま放置すれば2日後にはエストラに到達します」
テセウスを捕えてから10日後、ついに大きな異変が起きたのだった。
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