054話 ザイノイド式:コピー攻撃
結局、カズヤが魔法を使える可能性は無さそうだった。
しかし、これを機に湧いてきたアイディアが実現できれば、国を救うような大きな産業になる可能性がある。
自分のアイディアが実現されることを、カズヤは密かに期待した。
「ここがいつも模擬戦で使っている場所だ。辺りに人や建物は無いから、遠慮なく戦えるぜ」
お気に入りの練習場所に到着したようで、バルザードが自慢気に紹介する。
そこは開けた平らな大地で、少し離れたところに森やゴツゴツした山肌もある。たしかに、色んな条件で練習するにはうってつけかもしれない。
カズヤはあらためて剣の握り方から教えてもらう。
さっそく剣を握ってバルザードと模擬戦をしてみるが、全く相手にならずにコテンパンにやられてしまった。
「おかしいな、自動防御を使っているから攻撃をかわせるはずなのに……」
「それは、今まで弱い相手としか戦ってないからだぜ。カズヤは攻撃が苦手で防御しか出来ないのを知っているから、俺様は攻撃し続けられるんだ。どんなにカズヤが強くても、手の内がばれてたら相手は遠慮してくれないぜ」
さすが戦闘経験が豊富なバルザードだ。速度や腕力では人間を遥かに上回っているはずだが相手にならない。
「それにしても、なぜバルは俺の攻撃をやすやすと受け止められるんだ? ザイノイドの腕力は人間の数十倍だと聞いてるんだけど」
「獣人の身体能力は元々人間よりも高いからな。あと、魔力で底上げしているからじゃないか?」
「なんだって、その話は初耳だぞ!?」
「魔法を使える奴は、魔力を使って身体能力を高められるんだよ。だから男でも女でも強さには関係ないんだぜ」
どうやら圧倒的な腕力はザイノイドだけの特典ではなさそうだ。ますます、戦闘の技術を学んでおく必要がある。
「マスター、ザイノイドにはバルちゃんの攻撃をトレースする機能もありますが、使いますか?」
ひととおりバルザードに負けまくって、カズヤがいじけそうになっている様子を見て、ステラが提案してきた。
「なに、そんな便利な機能があるのか!? 何でもっと早く教えてくれないんだよ!」
「マスターが、バルちゃんにコテンパンにされるのを見たかっただけです。どうしますか?」
「もちろん使うに決まってるだろ、頼むよ!」
ステラは相変わらずひどいことを言っているが、いちいち突っ込んでる暇はない。
いつものように、ステラはおでこをカズヤのおでこにくっつけた。
おでこに指示を出すセンサーでもあるのだろうか。
カズヤには、この動作の必要性がよく分からない。以前と同じように緊張するが、すでに心臓が無いので心拍数が上がることはない。
ザイノイドになると、そんな小さな変化にも慣れていかなければいけない。
攻撃をトレースする方法を身につけると、バルザードの攻撃を一度見るだけで、同じ動きを再現できるようになった。
「おいおい、その機能は卑怯過ぎるぜ! 俺様の攻撃がすぐに真似されちまうじゃないか」
「今後の戦いの為に必要なんだ。バル、出し惜しみ無しで頼むぜ」
「俺様の経験が全部奪われるようで納得いかねえけどな……。まあ仕方がねえ。姫さんと国のためだ、全部教えてやるぜ。それより、俺様は槍の方が強いんだからな。ちゃんと覚えておけよ」
ぶつぶついいながらも、バルザードは全面的に協力してくれた。
トレースしたバルザードの攻撃方法と自動防御を合わせると、次第に模擬戦でバルザードを圧倒できる回数が増えてきた。
「わかったよ、もう降参だ! これだけやっても、何も疲れないなんて信じられないぜ」
「ありがとうな、バル。これで少しは貢献できそうだ」
疲れ知らずのカズヤの攻撃を受け続けて、ついにバルザードが白旗をあげた。
これで、さらに戦闘で活躍できる機会が増えるはずだ。カズヤは自分の戦闘力が高まったのを実感した。
ちなみに、カズヤとバルザードが模擬戦を繰り返している間、ステラは少し離れたところでアリシアの魔法の練習を手伝っていた。
ボットに持たせた的をステラがコントロールし、的をめがけてアリシアが魔法を唱える。
キャアキャア言いながら独自の魔法を練習するアリシアと、それに付き合うステラ。二人だけの楽しそうな様子が見れたのは、この前の演奏の効果かもしれなかった。
今までも二人の仲が悪い訳ではなかったが、何となく更に距離が縮んだような気がした。
※
バルザードの訓練から5日経ったが、まだアビスネビュラの動きは無い。
このまま放置されてもいいのだが、何もない訳が無いと国王は断言する。
「奴らが反抗した者たちに報復しないことは考えられない。こちらへの懲罰を考えているのだろう。今までに無いような制裁をしかけてくるはずだ」
付き合いが長い国王が言うのなら間違い無いはずだ。それならば今のうちにできることをやっておこう。
「そうだ、ステラ。前にお願いしていた魔石は売却できたのか?」
カズヤは魔泉を訪れた時に思いついたアイディアを、ステラに伝えていた。
あれからステラが試行錯誤してくれたお陰で、ついに商品が現実化できていたのだ。
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